東京都のカスハラ条例がいよいよ4月に成立します。本条例ではカスハラの禁止は明記していますが、罰則はないそうです。(参考:日本経済新聞2024年10月4日記事)
罰則がある方が良いと感じる人も多いと思いますが、私は罰則がないことが先進的と感じました。罰則を適用するには線引きが必要です。線が引かれていないとルールが恣意的に解釈されてしまいます。ただ、この線引きが曲者で、線を引いた途端に、「ここまではやってよい」「ここまではやってはだめ」という思考が生まれるのです。こうした思考は「人が嫌がる行為(広義のハラスメント)」であっても法に触れなければ「やってよい」という思考を誘発します。以前「禁止行為を伝える研修は逆効果」というコラムで紹介した話の通りです。東京都の議論のログを見ると、この考え方をしっかり理解しているようで、上記の知見と重なる議論を行った上で、罰則を設けないことになったのです。こうした点が先進的だなと感じた理由です。
改めてですが、条例では、「必要かつ適切な措置を講ずるよう努めなければならない」と事業者に対する努力規定があります。一方、企業のカスハラ対策は24年8月時点では71.5%が未対策とされています。 具体的な措置として、従業員向け研修、従業員相談窓口の設置、対応方針の策定、録音・録画機器の設置、従業員に冊子配布などがあります。この中で最も対策されている量が多い「研修」でも全企業の12%程度、大手でも24%にすぎません。企業のカスハラ対策はまだまだこれからという印象ですが、条例の成立を目前にして、話題になることも増えてきました。
面白い取り組みもいくつか出ています。上記の対策以外にも、「カスハラはAIが承ります 日本経済新聞2024年6月20日」のように、カスハラ顧客の声のトーンを穏やかなものに声質変更するというAIソリューション(ソフトバンク)や、カスハラを疑似体験できる犯罪心理学の知見を踏まえたツール(富士通)もあるそうです。カスハラの会話パターンを学習したAIが従業員と接客現場を模して会話をするそうです。このところ、AIを用いて、暮らしやすくなるソリューションが次々に登場していますね。
公開日: 2025年3月10日