昨今、ハラスメントをテーマにした研修の比率が多くなっています。オンライン、オフライン問わず、特に6月から9月はかなりの数のハラスメント関連のお仕事を頂いていて嬉しい限りです。
ハラスメントをテーマにした研修は、アサーションをテーマにした「イエナイヨ」をハラスメントで利用するところから始まり、パワハラ防止のための「ボスの品格」、知覚に関する講演やアンコンシャス・バイアスに関する執筆を経て、昨今ではe-learningの開発も行っています。
当社の仕事は、ベースとなる枠組みに関する構造化からはじめ、必要に応じて調査を行っていきます。
今回は、その際に出会った直感に反する研究結果をご紹介します。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー3月号に記載された「中途半端な打ち手が被害者を苦しめる 職場のセクハラ対策はなぜ裏目に出るのか(以下、本稿)」に記載されたフランク・ドビン、アレクサンドラ・カレフによる論考です。ボスの品格の開発時に書いたデザイナーズノートでの仮説を検証できる内容でもありますので、同コンテンツをお持ちの方にとってもヒントになるのではないかと思います。
本稿は「セクハラ」に関する論文です。ただし、私はここで記載された情報は、セクハラに限らず、ハラスメント全般に共通して言えることだと感じました。示唆に富む内容だと思います。
禁止行為を伝える研修は逆効果
1点目は、”禁止行為についての”研修についてです。”禁止行為についての”研修とは、どのような行為が法的に禁じられているかを教えるものを指します。例えば、「このようなことをしたらセクハラとして処罰されますよ、と具体的に指導するものです。
本稿では、禁止行為を伝えることは、セクハラを減らさないと断言します。企業が禁止行為についてのセクハラ研修を導入することで「女性マネジャーの数は減少」したそうです。
なお、研修と女性マネジャーの数の相関を正しく取るために、他の要因を取り除く先進的な統計手法を活用しているそうで、「たまたま」ではないことがわかります。もちろん、日本での研究ではありませんが、白人の女性マネジャーは数年間で5%以上減少することがわかったそうです。(アフリカ・ラテン・アジア系では減少も増加も見られなかったそうですが、増加しないということは、効果がないということです。)
なぜか。それは、この手の研修が「男性は注意しろ」というメッセージを送り、かつ禁止行為という基本をことさらに伝えることで「男性は境界線をわかってない」と伝えることになります。そうすると何が起こるのかというと、その集団、つまり男性は防衛的になり、解決に協力しなくなります。それどころか、抵抗すらするようになり、セクハラ研修をすると、被害者を責める傾向や相手がでっち上げもしくは過剰反応だというようになるのだそうです。つまり「あなたたちが悪いんだ」という研修は、逆効果なんですね。研修を受ける前にセクハラ傾向のあった男性は、研修後は更にセクハラ行動に肯定的になるという結果が見られたそうです。
さて、この話は、セクハラだけの話でしょうか。「あなたは注意しろ」「これはやってはいけない、常識だ」こういったメッセージを送っている研修はないでしょうか。
そう考えたときに、ハラスメントに関する研修、特にパワハラ研修も同じ問題を包含しているように感じるのです。
本稿にはまだまだ示唆に富む知見があります。長くなりましたので、続きは次回書きたいと思います。
公開日: 2021年6月5日