ジョブ・クラフティングを紐解く(2) | ビジネスゲーム研修で人材育成を内製化 | カレイドソリューションズ

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ジョブ・クラフティングを紐解く(2)

ジョブ・クラフティング

前回、「ジョブ・クラフティングを紐解く」と題したコラムを書いたところ、反響をいただけました。このため、もう少し応用的な内容を書いてみたいと思います。

ジョブ・クラフティングをどうやって学習するか

まずは、前回のおさらいからです。

ジョブ・クラフティングは、周辺の語彙が難しいため、それが原因でなかなか受け入れられにくいという認識を持っています。厚生労働省の労働安全衛生総合研究事業として2019年3月に発表された「ジョブ・クラフティング研修プログラム実施マニュアル」にある3つの工夫「仕事のやり方の工夫」「周りの人への工夫」「考え方への工夫」を従業員にも伝わる言葉として挙げました。タスククラフティング、リレーショナルクラフティング、コグニティブクラフティングよりはかなり伝わりやすい言葉だと思います。

これら3つを研修にしていこうと思った場合にどうするかが本題です。

これらすべてをジョブ・クラフティングとしてひとくくりに学習しようにもかなり範囲が広範です。これらのうち一つを学んでも、ジョブ・クラフティングを学んだとはなりません。例えば、コミュニケーション研修を受けて、ジョブ・クラフティングを学んだというのは無理があります。

大切なのは、それを統合するジョブ・クラフティングの理論です。このため、「総論を学習する」というのが一つのアプローチとなります。次に、「各論を学習する」ということになります。研修テーマと紐づけると、仕事のやり方の工夫は「業務改善」と紐づき、周りの人への工夫は「コミュニケーション(ソーシャル/ヒューマン)スキル」と紐づき、考え方への工夫は実にさまざまあるという感じになります。総論を踏まえて、これらの一つを学べばジョブ・クラフティングの全体のうち、注力領域を学んだといえそうです。私たちは、これを「総論+1」と呼んでいます。

もちろん、総論、各論①、各論②、各論③と全3回などのコースで学習するという方法もありますが、実務上、3回コースの研修などはなかなか好まれません。全部やろうと思ったら膨大というのが「研修」では難しそうだとかつて思った理由の一つでもあります。

各論的に学習しようと思った場合はいくつもやり方はあります。当社では、一例として価値発見ツール「かちかち山」を用いたアプローチを紹介しました。

三軸で考える

ここからはマニアック編です。

前述の3項目が確立した後も、ジョブ・クラフティングの概念は拡張され、複雑性が増しています。本質的になってきていますが、ややもするとより学術的で伝わりにくくなっているともいえます。

そうしたものは学問のためのものなので、論文や書籍の受け売りが好きではない私はこうしたものを普段は書かないのですが、少しブレイクスルーにつながるところがあると感じたため、今回は長々と書くつもりです。本件は、国内で発売されているジョブ・クラフティングの本にはあまりでておらず、海外の潮流を調べた際のものなので、比較的新しい話かと思いますが、その分定説になっていない可能性もあるという前提でお読みください。

まず、見出しの通り、「三軸で考える」のが新しい考え方です。一つの軸には、対極があります。3つの軸がありますので、その掛け合わせ、つまり2×2×2の計8パターンでジョブ・クラフティングを行うことになります。まずはひとつづつ軸を説明していきます。

①行動と思考(方法論軸)

まず、一つ目の軸は「行動」と「思考」という軸です。専門的には、「行動(Behavioural)」と「認知(Cognitive)」で、更に平たくいうと仕事の「やり方」と「考え方」になるでしょうか。

行動は仕事(タスク)の「やり方」、思考は「考え方」です。前述のタスククラフティングのうち行動部分とコグニティブクラフティングはこの軸に集約されています。まとめると方法論の軸とでもいえば良いでしょう。どういう方法論で工夫するかです。

行動は、職務のやり方を変えて、日常業務に新たなアプローチを加えることで、例えば、「レポート作成のスタイルを変えて、ビジュアルで表現できるようにする」といったものです。

思考は、仕事の意義や視点を変えて、業務に新しい価値を見出すことで、例えば、「単調なデータ入力でも、自分のやっていることが全社の意思決定に役立っていると考える」といったものです。当社でいうと「モチベーションマジック」が扱っているのが本領域かなと思います。

②獲得と回避(方向性軸)

次に、二つ目の軸は、「獲得(Approach)」と「回避(Avoidance)」です。ただ、これも少し難しいので、これを「必要なことを得る」と「不要なことを避ける」と考えます。取りに行く方向と避ける方向なので、方向性の軸といえます。

「必要なことを得る」は、スキルや機会を取りに行くことで、例えば、「先輩に同行を依頼して、商談の経験値を貯める」とか、「普段の業務に”これがあればプラスアルファできるぞ”という必要性のあるものを加えていく」ことです。

「不要なことを避ける」は、繰り返しのルーチンやモチベーションの下がるタスクや人間関係の回避です。例えば、「業務フローを自動化する」とか、「AIで省力化する」、「関わると面倒なことになる人と接触しない」といったものがこれにあたります。リレーショナルクラフティングは、ここに一部組み込まれているとも言えます。

①行動と思考×②獲得と回避

この二軸を掛け合わせ、2×2を作ってみます。すると、①行動×必要なことを得る②行動×不要なことを避ける③思考×必要なことを得る④思考×不要なことを避けるとなります。4つをまとめて表現するなら、「行動と思考の要否検討」とでもいえば良いでしょうか。

三軸を掛け合わせると複雑なので、まず二軸の掛け合わせで理解すると、例えば、「行動」×「必要なことを得る」であれば、「レポート作成のスタイルを変えてビジュアルで表現するという行動をしたいが、それにはスキルが足りないので、先輩のやっている作業を見せてもらう」といったものになります。皆さんも機会があれば、他の3パターンも考えてみてください。

③ゴールとプロセス(焦点軸)

更に、もう一つ軸を加えます。最後の軸は、専門的には、「ゴール(Goal)」と「リソース(Resource)」です。これは少し分かりにくいかも知れません。タスクのゴールとリソースを調整するのです。ゴールとリソースと表現されていますが、リソース調整はプロセスで行うことですから、ゴールとプロセスでもよいような気がしますので、資源を「プロセス」と超訳します。二つをまとめると、ゴール志向とプロセス志向なわけですから、焦点の軸とでもいえば良いでしょう。タスクのゴールとリソースの調整ですから、やり方や考え方というよりもタスクそのものに焦点があたっています。その点で、両者とも広義のタスククラフティングともいえるでしょう。

まず、「ゴール」です。例えば、高いゴールを掲げるとチャレンジ度合いが高まります。無理な仕事ならばゴールを下げれば何とかなると感じることもあるでしょう。このゴール調整は、単なるルーチンと思っているものに、スキルアップというゴールを設定し直したり、追加設定したりすることです。例えば、業務の質を更に高めるために、ログを取って、それを振り返るという新たなゴールを追加するといったものでしょう。

もう一つは、「プロセス」です。同じことをしようと思っても、人手(リソース)が十分あったり、時間(リソース)が十分あったりと投入するものが変われば結果は変わるように、リソースによってプロセスの質が変わります。もちろん、勝手にゴールを下げたり、リソースを追加するのはできないことが多いですから、人との関わりが前提になってくるので、人間関係の工夫という側面もあるので、リレーショナルクラフティングはここに含まれるともいえます。「プロセス」は、自分が投入する時間やリソースの配分を変更し、新しいリソースを投入するというようなもので、例えば、「効率化できる業務を効率化によって減らして、それを学習に充てる」とか、「業務効率化のソフトウェアを導入して省力化する」といったものでしょう。

これらを先ほどの二軸と組み合わせる、、、と2×2×2のジョブ・クラフティングの出来上がりとなるわけです。事例を挙げたいところですが、長文になるため割愛します。

まとめ

もともとの3つのクラフティングである「タスク」「リレーショナル」「コグニティブ」は、この3軸にうまく統合されています。リレーショナルだけは少しずれていたためか、全般的に散らばりました。

更に、新たに加わったものとしては、まず、必要なものを得て、不要なものを排除するという当たり前すぎる視点があります。「工夫」というのであれば、これは当然入るべきものでした。

また、作業とタスクは微妙に違います。タスクは目標が明確であるという性質のものなので、タスククラフティングは仕事のやり方ともいえますが、タスクに変化させるクラフティングという側面もあります。(タスクという言葉もなかなか和訳が難しい言葉で、仕事・職務・業務・作業・タスク・TODOなどの用語整理に取り組んだことがありますが、ここは本論ではないので割愛します。)

3つの軸をうまく調整することで「フロー」に入る

さて、行動と思考の要否検討を踏まえ、ゴールやリソースで難易度調整をすることで、ミハイ・チクセントミハイのいうような「フロー」に入りやすくなります。フローとは「ゾーン」というと分かりやすいかもしれませんが、極めて集中が高まった状態のことです。

また、これがグループで行う活動だった場合は、キース・ソーヤーのいうような「グループフロー」に入りやすいともいえます。今後、グループ・ジョブ・クラフティングなどもでてくるのではないかなとすら思います。

このフローやゾーンの状態にあれば、マンネリでないといえるのはお分かりいただけるでしょうか。

となると、先ほど書いたように総論的に学習するか、それぞれを各論的に学習するか、各論の連続として、全3回などのコースで学習するかという究極の三択ではない、第四の選択肢が生まれてきます。同時に三軸を学ぶという方法が可能になるのです。この第四の選択肢については、また将来に書きたいと思います。

なぜマンネリに関する研修相談が増えているのか

ジョブ・クラフティングを紐解く(1)

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