少し前なのですが、「記憶の壁」「実践の壁」「継続の壁」というフレームワークを目にしました。
この「壁」を超えることは、当社が普段から力をいれて取り組んでいることですので、考え方を紹介したいと思います。
記憶は基本的に忘れられやすく怪しいものである
まず、記憶の壁です。「研修であれだけ言ったでしょ」という発言があるようですが、これは参加者がかわいそうだと思っています。人は忘れやすいですし、自分にとって意味がない情報であれば、エビングハウスの忘却曲線通りに忘却されていきます。(部下指導などでもいえそうですね。)
人は話を聞いただけで記憶できない
まず原点に立ち返って考えましょう。そもそも人は話を聞けば記憶できるのかです。例えば、自分の学生時代を思い返すと、講義の印象は残っていても、講義内容はほとんど記憶に残っていないことがわかるかと思います。
例えば、英語の知識などは、私の場合、日常会話が全て英語だった時期や、塾で教えていた時期があって「使っていた」からかなり定着していますが、それでも講義の内容は記憶していません。
そもそも英単語といったものは、講義で覚えるものではなく、ドリルや発音しながらの書き取りといった方法で覚えていたのではないでしょうか。個性による部分もあるかもしれませんが、私は人から話を聞いても、文字に残っていなければ一つも覚えていられません。逆に、文字で見て、その意味あいが理解できれば比較的覚えていられます。(なので、地名や人名は致命的に弱いです。なので、地名はなぜその地名になったのかといった由来などから覚えます。)
ただ、こうした記憶は短期記憶といって長期間記憶の中に留めてはいられません。当社では、こうしたものについては、関連付けて短期記憶できるように工夫していますが、それでも長期記憶として残せているとは思っていません。これが研修の限界です。(ちなみに、研修が終わった時点で覚えられていなければ、研修の内容の問題です。現場にどれだけ使う場があろうが、覚えていないものは使えません。)
使う場がないのに実践させようとしても無理だという話
なので、次に、使う場の有無が重要になってきます。これが実践の壁です。そもそもですが、みなさんは、使う予定のないものを買うことはあるでしょうか。使い道のないものは買わないのが賢明なように思います。
実践の壁は、まさに現場に戻ったときに使う場面はあるのかという壁です。現場に戻っても使うことがなければ研修内で定着に努力していても、遅かれ早かれ行われなくなります。研修の買い手は効果があると思って研修を導入します。しかし、買い手が使い道があると思ったからといって、研修の参加者に使い道がわかるかは別な話です。研修では、具体的な使い方を言葉でイメージさせる工夫が有効ではないでしょうか。
当社では、最近行っている研修の効果測定では、実践の場の有無を確認しています。
継続を阻む職場の反対
最後に、継続の壁です。ここは、現場で活用したいという意思があり、活用できるだけの能力が身についていて、使う場があっても、職場の反対などで使えないことがあります。これは、私が以前に何度か書いた「ハードの壁」がそれにあたります。例えば、ソリューション営業の方法を学んでも、上司が部下に電話をかけさせることしかしておらず、電話をかけた件数が評価になるような職場であれば、研修で学んだソリューション営業が発揮・継続されることはありません。
継続に必要なのは才能ではなく仕組みだ
ただ、職場の反対がなかったとしても、継続は非常に難しいものです。どうやったら継続するか。これが今私が最も関心をもっている領域です。これについては「意志だ」とか「GRITだ」という考えが多そうです。ただ、残念ながら私は意志で何かを継続できたことはそれほどないように思います。意志でものごとを継続するには、多大なエネルギーやGRITのような才能を要します。だとすると、意志の力で継続する才能に恵まれない人には救いがありません。
HBR2018.2の特集「続ける力」の石川善樹氏によると、習慣とは「きっかけ⇒行動⇒報酬」だと書いてあります。修道女が祈り続けられるのは、神への信心があるからではなく、「鐘がなる」というきっかけがあるからだというのです。
継続するためには「鐘がなったら祈るのだ」と同じように、「そういうきっかけがあったらこうするのだ」という仕組みも合わせて検討していく必要がありそうです。その点で、行動計画書を書いて後日進捗をモニタリングするといったものは、後日の前日に届くリマインドメールが届いてからしかやられないでしょう。また、3ヶ月の計画ではなく、明日することの方が意味があります。
私は、ものすごく夢がない言い方をすると、納期があるから走るし、キャッシュがなければ一生懸命になります。そして、顧客の期待があるから提案を頑張る。そういうものなのかなと思っています。
社員が研修を継続するための「仕組み」はあるでしょうか。
公開日: 2018年3月9日