「マニュアル人間」っていう言葉があります。「マニュアル」に対する盛り沢山の悪意が伝わってくるメッセージ性のある言葉だと思います。
でも、マニュアルって、そんなに悪いものなのでしょうか?
そもそもマニュアルってなんのためにあるんでしょうか?
以前読んだ、「はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術」という起業家向けの書籍に、「成功するための7つのステップ」という項目があり、その中の基本ルールの一つに「マニュアル化」という記載があり、驚いたことがあります。(こういう私もかつてはマニュアル否定派でした。)マニュアルが「悪」と思う人にとっては、「マニュアル化」が成功のステップだなんて信じられないかもしれません。
本書では、
「決められた手順がなければ、改善することもできない。」
と書いてあります。
ここが肝です。当たり前のことですが、改善するためには、改善する対象が必要です。
よく、問題解決研修などで、ギャップアプローチをとることがあります。ギャップアプローチとは、在るべき姿と現状のギャップから問題を認識することです。
これからわかることは、
問題を知るためには、あるべき姿の明確化と現状の認識が欠かせない
ということです。
よく職場で叫ばれる「業務改善」についていえば、マニュアルがない職場で、「改善、改善」と連呼したところで、現場の社員は「何を」改善すればよいのか分からずに右往左往するだけなんです。以前担当した一般職の女性社員向けの研修では、こんなことがいわれました。
毎日のように業務改善業務改善と言われるが、何を改善すればよいのかわからない。これ以上改善できるものがないんです。
こういわれて、はじめは、「そんなに徹底した改善がなされているのか」と身構えてしまいました。しかし、実際に内部を見てみると、ほとんど改善がなされていないといっても良い状態でした。この原因がまさにこれで、改善する対象がそもそも存在しないために、改善したくてもできないのです。この事例は大手でしたが、数十人規模のパパママ企業がそのまま大きくなった会社ではこのようなケースがよくあります。
あと、よく私が頂くインターンシップ向けビジネスゲームの案件で、「○○を理解させたい」というものがあります。これも同じです。何も分かっていない人に何かを理解させたいと思ったら、必ず必要になるのが、「尺度」です。まず、「一般的にはメーカーとはこういうものである。」という基準値を提示してあげる必要があります。それに対して、「うちはこうなんだ。」と言えば、「ああ、ここが違うのか」という差違が認識されるのです。
多くの会社員にとって、自社のことというのは当たり前すぎて、語れなかったりするので、「一般的にはこうである」という尺度が提供できる外部者の視点は非常に価値があるものかもしれません。
また、「判断を限りなく減らす。 」というのもマニュアルの重要な役割の一つです。属人的になりすぎてしまい、全てを判断してしまうと、判断のミスが発生したり、大変すぎて潰れてしまう人もでてきます。このため、判断しなくてもよいところはきっちりと定めて、重要な部分だけを判断させるとしたほうが、意思決定全体の質があがります。
私はよくマニュアル作成をするのですが、慣れないころに作ったマニュアルは、随所に判断を必要とするものがありました。最近つくるものは判断せずできるように工夫をしてあります。
閑話休題。
マニュアルというのは、企業の仕事の進め方の基本型をきちんと提示するという意味で非常に価値があるものです。決められた手順があるということが、改善の第一歩なんです。改善がすすまないという会社は、成長過程でマニュアルが失われてしまっていないかを振り返ってみるとよいのではないかと思います。
ここで、マニュアル人間がなぜ悪いのかを改めて記載すると、「マニュアル」は改善するためのたたき台という認識が欠けているところが、マニュアル人間がマニュアル人間といわれてしまう理由なんだと思います。
「守・破・離」という言葉がありますが、マニュアル人間は守を徹底しているわけなので、最低限のことはできているはず。もし最低限のことができていないとするならば、マニュアルを変えてあげれば、マニュアル人間はそれにしたがうはずです。逆にマニュアル通りのことが出来ずに、いきなり「離」から始める人が最近増えているとすると、お客さんにとって、その企業の顔はどのように見えているのかが分からなくなってしまいます。
最後に、アルビン・トフラーの「第三の波」の一節を引用します。
人々は、人生に見通しを必要としている。見通しのきかない人生は、行き先の決まらない難破船のようなものである。見通しの不在は崩壊へとつながる。見通しは、私たちが必要としている相対的な基準を示してくれるものなのだ。
マニュアルをちょっと見直すきっかけになるとよいですね。
公開日: 2010年4月12日