職場で「思い出す」を仕掛ける-研修転移(2)- | ゲーム研修で人材育成の内製化を支援 | カレイドソリューションズ

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職場で「思い出す」を仕掛ける-研修転移(2)-

さて、前回は研修転移を説明してきました。今回、研修転移について書きたいと思ったのは、研修の転移ではなく、職場での再想起を促す仕組みを検討する機会をいただいたことがきっかけです。こうした理論は、数々の研究の積み上げで成立します。

知識は人間の中だけにあるものではない-分散認知とは-

まず、想起の仕組みの理論の一つとして「分散認知」を紹介します。

先日、生物関連の本を読んだときに、「腸内細菌やウイルスも含めて人体と考える」というメタゲノムの発想を見て驚かされました。分散認知は、メタゲノムの発想と近く、知識は周囲にも分散していると考えるのです。

知識や思考は自分の頭の中だけにあると考えるのが一般的ではないでしょうか。しかし、分散認知の考え方ではそうではありません。知識や思考は頭の中だけではなく、周囲に分散していると考えるのです。例えば、道具や他人、環境に分散していて、それらまで含めて知識だと考えるのです。

例えば、飛行機の操縦は、パイロットだけで成り立つのではなく、パイロットの頭脳+コックピットの計器+副操縦士とのやりとりで成り立つということです。つまり「知識や思考、記憶や判断は道具や職場環境に支えられている」のです。

想起理論と符号化特異性原理

何かをきっかけに思い出す-想起理論-

想起は、簡単にいうと「思い出すこと」です。想起理論(Cue-based Retrieval)と言われることもあります。

みなさんにもふとしたときに何かを思い出すことがあるのではないかと思います。

例えば、交通安全の看板を見て注意することを思い出したり、香水を嗅いだときや特定のメロディを聴いたときに記憶がよみがえる経験を持つ方は多いと思います。
とあるキーワードを耳にしたときにすっかり忘れていたことが急に思い出されるといったことはないでしょうか。私も分散認知のことを考えていたら、腸内細菌を含めて人体を捉えるメタゲノムの考え方を想起しました。

こうした理論は、別に特別なものではなく、研修後に定期的に思い出すためにメールを送信するような工夫をしている研修担当の方は多いのではないでしょうか。

符号化特異性原理

こうした想起理論の一つに「符号化特異性原理(Encoding Specificity Principle)」があります(符号化特殊性原理と呼ばれることもあります)。想起理論よりも限定的な理論ですが、「記憶したときの状況や文脈と、思い出すときの状況や文脈が一致するときに記憶が鮮明に引き出されやすくなるという理論」です。研修の場で使った資料や道具をそのまま職場に置いたり、研修で使ったキーワードを職場で日常的に目にするような工夫をすると、この符号化特異性原理が効果的に働き、学習した内容が職場で想起されやすくなるというものです。

ナッジ(Nudge)とは

また、ナッジ(Nudge)をご存じでしょうか。ナッジとは、「そっと後押しする」というような意味の言葉で、人の自由な選択を妨げることなく、行動を望ましい方向に導くための小さな工夫や仕掛けのことを指します。この話をすると、2019年に発売された「「ついやってしまう」体験のつくりかた: 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ」に言及する方が多く、この書籍で多くの方が「ナッジ」を知るようになったように思います。

ナッジの観点から見ると、職場での「思い出す仕掛け」を工夫することで、研修内容の実践を無理なく促進できます。例えば、研修で重要なキーワードを書いたカードを職場に置き、会議のたびに引くことを習慣化すれば、引く行為自体が自然な想起を促すナッジとして機能するわけです。

上述の想起理論のように認知心理学の言葉ではなく、行動経済学寄りの言葉ですが、概念としては近く、当社でインターンをしていた意思決定や行動経済学を学んでいた東京大学の学生もナッジについて言及していたことから、ゲームやゲーミフィケーションとの関わりも深いように感じています。

アフォーダンス理論との関連

余談で、認知心理学に戻しますが、ギブソンのアフォーダンス理論との関連も感じます。例えば、会議におけるエドワード・デボノの発案とされる六色ハット法などは帽子を用いて各参加者に役割を持たせることで役割に対して求められる行動を思い出させられます。ハットに意味合いがあることによって行動が想起され、何をすべきかが改めて認知されます。また、帽子は「被る」行動をアフォード(促し)します。カードなら「切る」「並べる」「めくる」をアフォードするでしょう。

職場で再想起させるには

これらの理論を応用し、会議など日常業務の中に想起の手がかりを散りばめたり、ナッジを活用して自発的な行動を促すことが、学習効果の維持と実践につながります。

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