チームビルディングは、多くの企業において欠かせない取り組みとして注目されています。しかし、その目的や手法については、しばしば誤解が見られます。たとえば、「楽しい場であればよい」とか「ゲームをすれば初対面でも仲良くなれる」といった誤解です。ゲーム研修を扱っているため、よく「楽しいだろうから御社に問い合わせた」とか「仲良くさせたいからゲームを使いたいんだ」といった問い合わせを頂きます。
ただ、そのうち半分くらいは「お断り」させていただいています。「ボードゲームやらせたら安く済みますよ。」「飲み会でいいんじゃないですか。」「面白い動画でも再生したらどないでっか。」とオススメしてご納得いただくこともあります。
なぜ、こんなことをいうのでしょう。当社は酷い会社なのでしょうか。ゲーム研修を提供している会社ではなかったのでしょうか。
結論から書きます。
ゲームが既存の関係をさらに深めることを得意とします。多くのゲームは初対面の関係構築(「0→1」)ではなく、既存の人間関係を深める(「1→100」)のに有効です。初対面の関係構築で用いる場合には、ゲームの性質が重要で、「人」に注目するゲームである必要があります。
初対面の場では「人」に注目する活動が関係を構築する第一歩となります。にも拘わらず、「人」ではなく、ゲームクリアや単に協働するだけのような「1→100」の手法を採用して失敗しているケースが見られます。一方で、既存の人間関係を深化させるためには、ゲームを一緒にクリアしたり、共通の目標を目指したりといったゲーム的なアプローチは効果的です。このように、「0→1」と「1→100」いずれの段階にあるのかを踏まえ、それぞれに適したアプローチを取ることが、研修でのチームビルディングを成功させる鍵となります。
一方で、インターネット上では、「チームビルディングにはゲーム!」と喧伝されているものが多々あります。そうしたものを信じていただくのもよいですし、今回書く内容を見てご判断いただいても構いません。
一点、お伝えしたいことは、私たちは「初対面の懇親に謎解きゲームを用いて失敗した」など、各社が取り組んで失敗した事例を知る立場にいるということです。
以下では、当社の考えるチームビルディングについて、「0→1」と「1→100」の視点を中心に解説します。
0→1での人間関係の構築
懇親会や交流会では仲良くなりにくい
初対面の場で人間関係を築くことは簡単ではありません。多くの人は、幼少期から「知らない人と話してはいけません」といわれて育っています。同僚だからという理由だけでその壁を突破できるとは限りません。初対面の相手と打ち解けるのには時間がかかるのです。これは上司と部下であっても同期間でも同じです。
多くの人は人と人が打ち解けるのに時間がかかることを理解しています。だから懇親会をしたりするのだと思いますが、懇親会は場の共有にすぎませんからから、参加しても仲良くなるところまではいかなかった経験はないでしょうか。また、各種の交流会に参加して、その場限りの関係性しか築けなかったということはないでしょうか。
単に、懇親・交流といった場があるだけでは人間関係はできないのです。そこにたまたま自己開示をしたり、他己紹介したり、聴くのがうまかったりといったコミュニケーションの達人がいた場合は話は別かもしれませんが、そうした人が都合よくいることを期待するのは博打のようなものです。
仕事の話では仲良くなりにくい
となると、懇親会ではなく「研修であれば講師がいるのでなんとかなるのでは」という話になります。そうすると、「この場は研修だ」とか、外注した場合は「お金を払っている」という気持ちが邪魔をします。研修で人間関係の構築を行おうとすると、「懇親だけにはお金を払いたくないので、何か学びを」と期待したり、「プライベートではなく仕事の話で仲良くさせたい」と本来やりたかったことから離れた要件が追加されたりします。
まず、「プライベートではなく仕事の話で仲良くさせたい」についてですが、実は、初対面の相手に仕事の話題を持ち出すことは、逆効果である場合があります。リモートワークを導入している企業を対象とした研究によれば、初対面で仕事に関する話題を中心に会話を進めると、相手との関係を継続的に築きにくくなることが明らかにされています(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2023年8月号 初対面の同僚に仕事の話は避けよう)
この研究では、従業員500人を対象に、面識のない相手と電話で会話をする実験が行われました。会話の内容を「仕事の話」「仕事以外の話」「両方の話題」に分けて比較した結果、仕事以外の話題を中心に会話を進めたグループが、協力的で親しみやすい印象を与え、関係が続く可能性が高いという結果が得られました。このように、初対面の場では、仕事ではなく相手の個人的な背景や価値観に焦点を当てたコミュニケーションが有効です。
ではどうしたら初対面でも仲良くなれるのか
プライベートの話題は、とても大事です。認知心理学者のフェスティンガーは、「人と人が親しくなるには」を研究しています。人と人が親しくなるには、熟知性、つまりよく知っていて、類似性、つまり共通点があって、近接性、つまり近くにいるということが重要という研究結果を発表しています(研究のシチュエーションはやや特殊ではありますが)。
つまり、お互いが自己開示をすることによって、お互いを知り、そこで共通点が見つかることが起点なのです。更に、一緒の職場であるとか何らかの近接性が働くと三者がコンボとなるのです。みなさんも、よく知っているタレントに親近感を感じたり、同郷だという理由で推すようになったり、毎日会っているうちに親しくなるという経験はあるでしょう。
ただ、経営陣を含め、ビジネス経験を重ねてきた人ほど、息をするようにこうしたことをこなしてきました。だから、自己紹介をするのに、外部の会社に「お金を払う価値がない」と判断しがちなのです。お金を払う価値がないが高じると、やる時間がもったいない、となり、結果として関係を築くベースが作られなくなってしまいます。これは非常に残念なことです。逆接的ですが、お金を払うとやらざるを得なくなるので、そうした観点で外注をうまく使うのはありかなと思います。
「人」に注目する活動で仲良くなれる
話を戻すと、「人」に注目して、個人的な話題に焦点を当てれば、相手との共通点を見つけやすくなり、信頼関係の基盤を作れます。ここにゲームを使うのは悪くありません。ただ、ゲームにもさまざまあって、「人」に目が向くものもあれば、脱出ゲームのようにゲームクリアに目が向くものがあります。脱出ゲームなどは共同作業なので、一見仲良くなれるように感じられますが、初対面であれば、相手から目をそらしてゲームができてしまいます。共同作業者はモブなんです。なので、当社では、初対面の関係構築、「0→1」を実現するために、「人」に注目するゲームを推奨しています。
人に目が向くゲームも多々ありますが、その一例が「ウソつき自己紹介」です。
内製をして、一人3分×20名の自己紹介をやってみて、みんな眠そうにしていたようなこ経験はないでしょうか。そうした経験しているのならなおさらにゲームは有効です。たとえば、「最近の趣味は料理です」といった自己紹介に混ぜて、「実は、過去に料理番組に出演したことがあります」というウソを織り交ぜ、どれが本当かを考えてもらいます。このプロセスが、自然な会話のきっかけを生み出します。
このアプローチは、以下の特徴を持ちます。
- 自己開示の促進: 自分について考え、話す機会を通じて、自身を開示する場を作る。
- 共通点の発見: クイズ形式で他者のエピソードを深く考え、共通点を見つけやすくする。
- 自然な雑談のきっかけ: クイズ後の雑談を通じて、自然な会話の流れを生む。
自然に自己開示を促し、クイズ形式を活用して問題に目を向けさせ(人は自分にしか基本的に興味がないので、他人のことは面白いと思わないことが多いものです。)
事例:ウソつき自己紹介で初対面で仲良くなる
この活動は、初対面の場で「人」に焦点を当てる工夫を取り入れています。具体的には、クイズ形式で作成した自己紹介を元にしたゲームを実施することで、参加者が他者への興味を自然に持ち、会話が弾む環境を整えます。また、他者への理解を深めることで、雑談や交流がスムーズに進む土壌が生まれます。
ただ、ウソつき自己紹介には、目新しさがありません。「似たようなことをやったことがある」を理由に採用されないこともあります。しかし、やったことがあったらやらなくてよいのでしょうか。そもそも、人が入れ替わっていたりするから再度チームビルディングを検討しているのではないでしょうか。提供者としてやったことがあっても、参加者がそうとは限りません。自分に経験があると、他者にも経験があると思ってしまうのは典型的なバイアスです。自己開示は極めて重要で、メンバーが入れ替われば何度やっても構わないのです。奇をてらったり、新規性を狙って、初対面の参加者に対して「暗闇で」「サバイバルゲームで」「運動会で」と色々なゲームに手を出すのは無駄です。
当社では、初対面が多いような場合は、こうした本質に着目し、スマートフォンを活用した本ワークの進行とともに、人間関係構築に関する心理学の知見や実践的なアプローチをインプットしています。これにより、参加者が初対面の関係を築くスキルを実際の職場でも展開できるようにしています。
1→100での既存関係の深化
ここまでは、「0→1」を説明しました。ここからは「1→100」です。
既存の関係をさらに深める「1→100」の段階では、初対面の関係構築とは異なるアプローチが必要です。単なる会話や情報共有では、関係性の深まりが限定的になることがあります。なので、この段階では、ある程度の信頼関係や相互理解がある中で、さらに親密さを高めたり、協働を促進することが目的となります。共通体験や協力的な活動を通じて、関係性に新たな視点や刺激を加えることが重要です。
つまり、ここで求められるのは、参加者が感情的に関与し、チームとしての一体感を感じられるような仕組みなのです。
「タックマンモデル」は有名なモデルですが、段階を経てチームが形成されていくといいます。私たちの言っている「0→1」「1→100」はそこから着想を得たものですが、タックマンモデルの中の「ストーミング」は昨今「心理的な安全性」の観点から、なかなかできなくなっています。研修の場も安全であるべきという考え方を私たちも採用していますし、人材開発の皆様の立場としてもそういう場を仕掛けることが難しくなっているので、それを踏まえると、タックマンモデルは「0→1」「1→100」に単純化されるのです。
アプローチ:ゲームや共通の目標の共有
当社では、この「1→100」の深化において、ゲームや共通の目標を活用したアプローチを提案しています。以下の要素を取り入れた設計が効果的です。
- 共通の目標の設定: チーム全員が協力して達成を目指す目標を設定することで、一体感を醸成します。例: ビジネスゲームやグループワークを通じた成果物の作成。
- プロセスへの注目: ゲーム内での意思決定や役割分担を通じて、メンバー間の相互理解を深めます。例: シミュレーション型のゲームや競争型の活動。
- 達成感とフィードバック: 活動を振り返り、メンバーそれぞれの貢献を認識し合う時間を設けます。例: ワーク終了後のディスカッションや表彰。
これらを兼ね備えたものが「ゲーム」なので、「0→100」の段階ではゲームが選ばれやすいということなのです。
ゲームの効果
ゲームは以下のような効果をもたらします。
- 既存の関係性を活性化: 共通の目標を追求する中で、新たな側面を発見し、関係性をリフレッシュします。
- 協働スキルの強化: ゲーム内の役割や課題を通じて、互いの強みや補完性を学びます。
- 一体感の醸成: ゲーム内での成功や失敗を共有することで、感情的な一体感が生まれます。
実践例: ビジネスゲーム「FB職人」
当社が提供する「FB職人」は、職場でのフィードバックをテーマにしたゲームです。このゲームでは、以下のような体験が可能です。
- 役割体験: 先輩・後輩としての立場をシミュレーションし、フィードバックの練習を行います。
- 目標達成: 各自が良いフィードバックという目標を達成するために、効果的なコミュニケーション手法を模索します。
- 振り返りと改善: ゲーム終了後にフィードバックの質を振り返り、改善ポイントを共有します。
「1→100」の場合、「設計されていること」、「学びがあること」がお金を払う価値だと思います。ベンダーはやろうと思えば、「学習を設計せず」「学びもこじつけ」ということができてしまいます(もちろん、そうしたベンダーはないと信じたいですが)。そのようなものであれば、わざわざ従業員が必死に稼いだお金を何十万円も投資してベンダーに頼む必要はありません。良いボードゲームは沢山ありますので、それを買ってやれば数万円で済むのです。
1→100で得られるもの
「1→100」のアプローチは、既存の人間関係をさらに強固にするだけでなく、チームとしての生産性や一体感を向上させる効果があります。私たちはこの段階でゲームを使ってもよいとは思っておりますが、少しもったいないかなとも思っています。共通の目標があって、協働して、成功や失敗があって,,,だけであれば、それって日常業務そのものではないですか?日々の仕事ではダメなのでしょうか。
日常業務で親しくなれない人たちが、ゲームなら親しくなれる道理があまりないように私は感じています。そういうと「だって、仕事は楽しくないけど、ゲームはみんなが楽しいじゃない」と言われることがあります。ただ、本当にそうでしょうか。書籍「しかめっ面にさせるゲームは成功する」を見てみましょう。ゲームって、大抵のゲームは勝ち負けがあって、勝者になれない人の方が多い。途中で挫折も多くある。それって仕事も同じではないでしょうか。
ゲームは、ビジネスシーンで多くの可能性を秘めたツールとして注目されています。しかし、その特性を理解し、正しい目的に適した方法で活用しなければ、期待する成果を得ることは難しいでしょう。当社では、ゲームの特性を「0→1」と「1→100」の違いを踏まえたうえでチームビルディングに導入いただくことを推奨しています。
おわりに
最後に最もお伝えしたいこととして、私たちの作っているゲームは、学習目標があって、学びのために設計されたゲームです。15分でやりたいとか、楽しければそれでよいといった用途に使っていただきたいとは思っておりません。ゲーム研修がもたらすのは「楽しさ」そのものではなく、その楽しさを通じて得られる「学びの深さ」です。きちんと学びの場を考えている方に、しっかりと作りこまれたゲームを提供したいと思っております。
もちろん、チームビルディングは、組織の成長や人材の成長に直結する重要なものであり、それを否定するつもりはありません。ただ、それが「ゲームだからできるだろう」と安直に飛びつくのは全く筋が違うのです。私たちは、「0→1」と「1→100」という点で切り分けながら、お客様のチームづくりに向き合っています。
関連リンク
公開日: 2024年12月3日