ビッグワード「1on1」を紐解く

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ビッグワード「1on1」を紐解く

すっかり日常的に使われる言葉になった1on1(1on1ミーティング)。私たちにとってもご相談いただくことが急増した言葉です。ただ、1on1という言葉は比較的新しく登場した言葉であるが故に、認識のズレによるミスコミュニケーションも起こりやすいのが実際です。

セミナーでは1on1についてお話することは多いものの、コラムでは詳細に書いたことがありませんでしたので、今回は1on1を紐解いてみたいと思います。

背景その1:VUCAを前提とした環境変化

1on1が注目されるようになった背景の一つにVUCAがあります。VUCAの環境では期初から、期初から期末といった「長期(現在は1年も長期だと考えられます)」において目標を設定して達成に向けて進捗を管理するといったことがやりにくくなってきています。こうした環境では、ひたすら動き続ける的を射るために、目的を踏まえつつ、目標をピボットし続ける必要があるのです。部下は目標の達成を目指し、その達成度によって評価されるわけですから、面談の機会がないといった場合には、変化に合わせた仕事ができなくなってしまいます。このため、1on1ミーティングには、各種面談の補完機能としての役割があるのです。ただ、これだけではないことには留意すべきでしょう。

背景その2:タレントマネジメントからピープルマネジメントへの流れ

次に、手厚く指導する対象の広がりと、キャリアの話が挙げられるのではないでしょうか。

海外では「タレントマネジメント」がHRのキーワードになっていた時期がありました。タレントマネジメントは、狭義には優秀人材(タレント)へ投資することです。以前は「人材獲得競争(ウォーフォータレント)」という言葉も流行していました。「タレントって人材全部を指すんじゃないの」という方もいるかもしれませんが、狭義には優秀人材を指します。私たちも、世界のタレント獲得競争を勝ち抜いた方々への教育を長年やってきましたので、タレントマネジメントの感覚は非常によく理解できます。古代ギリシャの通貨「タラント」から「タレント」という言葉が生まれていることからも「タレント」には(金銭的に)価値あるもの、つまり財を生み出す相対的な優秀さという含意があります。

ここからタレントだけに注力するのではなくその他の人材も含めた「ピープル」へ裾野が広がり、その人、さらにはその人のキャリアに合わせたマネジメントを「アダプティブ」に行おうと考えたのがピープルマネジメントです。

部下指導やOJTがピープルマネジメントを支えてきましたが、多忙化や、部下指導やOJTが機能不全に陥っているため、ピープルマネジメントの手法の一つとして、1on1が登場したと考えています。

背景その3:接点の少ない職場

「職場での会話禁止」というとある巨大IT企業の人事部に勤めていた方の話を直接聞いたことがあります。驚きますね。全ての会話はチャットで行われ、人間味がない職場だったと悲しそうに語っていました。

面談なども年に数回で少なかったようです。その方の退職後に部門長が変わり、文化が変わったそうですが、会話の場がない会社では「事前に時間や場所を決め、テーマも用意して臨む1on1」や「わざわざ定期的に上司と部下との間で行う1対1に対話」は極めて強力な効果を発揮することは疑いようはありません。

御社での「オンライン」の環境は「会話の場がない会社」と近くなってはいないでしょうか。また、御社には、もともとどんな面談文化があったでしょうか。もし、もともと上司と部下が話し合って問題を解決する文化があり、それがうまく回っているようであれば、1on1に飛びつく必要はないのかもしれません。

ただ、コロナ禍で、上記の会社と事実上同じ環境になった会社が増えてしまいました。WFHになってから、同僚の顔を見たことがない。雑談したりすることが減った。用がなければ話さないといったことも増えてきました。こうした環境では、1on1はやはり効果的です。

ただ、その際に、単なる定時面談の延長と考えてしまうと、うまくいきません。私が見た中でのよくある誤解をこのあと書こうかなと思います。

誤解その1:面談とは会議室で行う活動だけではない

最も多いご相談に「会議室での面談」を増やす話があります。目標設定面談や評価面談(ときには中間面談)といったセンシティブな内容を含む面談の延長線上で面談を捉えているとこのような誤解につながります。誤解の原因は、そもそも面談という言葉の意味のずれにあります。

1on1という言葉には、1と1の接触(on)という意味しかありません。ミーティングという言葉には、meet、つまり顔を合わせることですから、そこには「会議室での面談」や「頻度」といったものは含まれていないことには着目すべきではないかと思います。

面談は「面(つら)を合わせて談(かた)る」という意味です。別に個室でなくても良いのです。例えば、オフィス環境であれば、廊下ですれ違いざま(偶然)にとか、同行中(必然)での会話も面談です。この頻度が「適切な」回数であること。これが大切です。(「適切」についてあとで説明します。)

オンラインでは、偶然がありえませんので、意図的に時間を設定する必要があるかもしれません。コロナ禍よりも前から1on1は言われていた話です。

誤解その2:最低何回やればよいのか

次に多いのが、回数を決めるとか時間を決める話です。月に最低1回、最低1時間といった回数や時間を決めると、マネジャーの負担感が大きくて・・・という話をよく聞きます。回数や時間を決めるのは、全くの筋違いの話だと感じます。(適切かどうかは部下によって異なります。部下あっての1on1ですので、支援の原則は必要な相手に行うことですから、そこからいっても回数を決めるという話はナンセンスです。)

そもそも、目標設定面談や評価面談のような義務的なものとして捉えられた瞬間に1on1はおしまいなのではないかと思います。1on1は理念だと考えるとわかりやすいのですが、理念のないところにルール(この場合は制度)をいれてうまくいくケースは稀です。

1on1は上司と部下が必要性を感じて、部下がやってほしいからやるものです。ルールを決めたがる方は多いのですが、ルールを決めたら気持ちよくやるとは限りません。逆に、やりたいと思っていたことが義務化された瞬間にやりたい気持ちがしぼんだ経験は誰にでもあるでしょう。遅刻をしたらお金を払うというルールを決めたら遅刻者は増えます。お金を払えば遅刻して良いと認識されるためです。これと同じように月に最低一回というルールを決めたら、それさえやっておけば良いと認識されてしまい、1on1のあるべき姿からは遠ざかっていくでしょう。

1on1は、随時行うのが理想的です。平等を期すために、週一度や月一度といったルール未満のガイドラインはあっても良いと思いますが、頻度を決めることが重要なのではありません。義務的なものや管理するためのものではなく、むしろ部下側から、仕事が進捗するからもっとやってほしい、またやってほしいという形で上司・部下双方が望んで随時行うものですから、そもそも負担になるはずがありません。負担になるとするならば、そもそも必要であると感じられていないわけです。必要だからやるというパラダイムチェンジをすることが先決です。そうでなければ、単なる管理業務の増加と捉えられてしまいます。

誤解その3:1on1では仕事の話をする

1on1では、目標(時にはその見直しも含めます)を達成するためのポジティブな会話が行われます。そこでは、アイスブレイクや雑談などは当然あって構いません。仕事の話だけをするという決まりはありません。(雑談が難しいという人には、当社は「雑技談」というツールを用意してあるので、是非見てみてください。)

1on1は別名チェックインと呼ばれます。チェックインという言葉は研修運営でも使われますので、ご存知の方も多いと思いますが、研修に入る「前に」、もしくは会議に入る「前に」行うありのままの状態の確認です。これが必要であれば当然やるべきなのです。

どこの会社の目標管理マニュアルにも書いてあるような話だと思いますが、目標設定の基本的な考え方は、上からの押し付けの目標ではなく、個人と会社がwin-winの関係であるために、目標をうまく活用してセルフコントロールを促すことです。これは1on1は、随時の関わりの中で、個人がキャリアゴールを用いて自己実現できるように、「支援」ができればそれで良いということになります。

支援にも色々とあり、中原淳先生の職場学習論では「精神支援」「業務支援」「内省支援」があるとされています。雑談によって精神支援ができるのであれば、仕事の話でなくても行うべきなのです。

誤解その4:1on1が増えると上司も部下も嫌がるのではないか

ここまでに説明した誤解に基づいて、1on1が設計されるとどんなものになるでしょうか。
・会議室で
・月に1回
・仕事の話をし
・上司が部下にできていないことを詰める場
になることは容易に想像できます。

面談を経て、部下が次の目標に向かって行動変容することを期待していたとしても、その期待をうまく言葉にできない上司にとってはプレッシャーとなり、できていない点を指摘され修正を指示される部下にとっては苦しい時間です。双方が疲れてしまう1on1ではネガティブに受け取られるのもうなずけます。

前述したように、部下側から、仕事が進捗するからもっとやってほしい、またやってほしいという形で上司・部下双方が望んで随時行うものです。そもそもそうなることがありえないように思うのであれば、1on1が問題なのではなく、上司が自分自身の役割を誤って認識していることや、部下が上司を相談するに足る相手として認識していないということがあります。こうした場合は、1on1の研修は必ずしも問題解決になりません。マネジメントとは何をすることかといった内容の研修であったり、適切な人材を管理職に据えるといった組織的な取り組みも求められます。

まとめ

1on1では、面談を行う双方の相互理解が前提となります。関係の築けていない相手に自分から相談したい部下はいないでしょう。

近日コラムを書きたいと思いますが、私たちは「ビッグファイブ(五因子モデル)」の講義型研修(当社の講義型研修は、ゲーム型と区別するために、講義+ワークで行うものを講義型と呼んでいます。)を2010年に開発し、この手法を用いて、自己理解と他者理解、それを踏まえた相互理解を実現しています。

そして、1on1を通じて、仕事が前に進むこと(当社では1on1の最大の効果を目標ややり方も含めた各種の「握り(Alignment)」だと考えています。)こそが最も重要なのです。この「握り」の概念については当社は「仕事の進め方」、すなわち「段取り」の研修でこれを説明しています。

さて、冒頭に「セミナーで1on1の話をよくする」と書きましたが、どのセミナーかというと「FB職人」という商品のセミナーで1on1について話します。FB職人は、面談場面でのFB(フィードバック)の改善を目的として開発したものだからです。

もし、本来の意味での1on1を実現するために研修をしたいと考えているようでしたら是非ご相談いただければ幸いです。

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