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フィードバック力向上ツールの開発背景(下)

フィードバックでは「進捗」と「通知」が肝

受け手が欲しているフィードバックは「活動に意味があった」、つまり「進捗」したことの「通知」である。逆に、自分のしていることに意味が薄かった場合も然りである。それを指摘してもらうことが「耳の痛いこと」になるだろうが、フィードバックの結果、自分から軌道修正できれば成果につながるのだからありがたいことだ。

以下は、少し難易度の高い内容になるが、「進捗」は今回のコンテンツの肝となるので、良く読んでいただければ幸いである。「進捗」の重要性について書かれた書籍に、テレサ・アマビールの「マネジャーの最も大切な仕事-95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力」がある。テレサ・アマビールの専門分野は「インナーワークライフ(個人的職務体験)」という従業員個人の感情や認識、モチベーションである。「インナーワークライフ」は聞き慣れない言葉かもしれないし、専門用語なので覚える必要もないし、研修で使う必要もないが、最近の横文字をそのまま使う傾向が好きではないので、私なりの和訳として「社員ごとの業務体験の質」をあてたい。

組織の成果向上の前工程には「社員ごとの業務体験の質」の向上があり、さらにその前工程には「進捗」がある。逆に言えば、進捗が「社員ごとの業務体験の質」を高め、「社員ごとの業務体験の質」が組織の成果を高めるわけだ。
「社員ごとの業務体験の質」の考え方は、感情と認識とモチベーションが「成果」に影響を与えるとする心理学の研究を前提にしている。感情(快・不快とその強度)と、認識(状況認識)と、モチベーション(”やるかどうか”、”努力するかどうか”、”努力を続けるかどうか”の組み合わせ)が成果に影響を与える考え方はわかりやすいだろう。これをワンワードで言い換えたものが「社員ごとの業務体験の質」である。
「社員ごとの業務体験の質」つまり従業員の感情・認識・モチベーションは、その前工程である「進捗」に大いに影響を受けている。まず、仕事が進捗すれば、快の感情があるだろう。次に、上司から、事実とそれに対する認識を伝えられれば、進捗が不明確な状況がすっきりする。最後に、仕事が進捗していれば、その後工程を進めようとか頑張ろうという動機にもつながるだろう。この「進捗」はフィードバックを通じて実現されるわけだから、極論すれば、良いフィードバックは良い「社員ごとの業務体験の質」、ひいては良い成果につながるのである。

「進捗」をどのように伝え、仕事をサポートするか

同書では、マネジメントの仕事の中で、「評価・インセンティブ・対人関係のサポート・明確な目標・仕事の進捗サポート」の5項目の重要度に関してアンケートを取った結果を公開している。その結果が邦題の基になっているのだが、効果が最も高いとされる「仕事の進捗サポート」を最も重視しているマネジャーは5%と5項目中で最下位だったらしい。

テレサ・アマビールは仕事の進捗サポートを通じて「社員ごとの業務体験の質」を高めるために、進捗することを支援し、阻害することを排除することを勧めている。特に、仕事の進捗サポートを3カテゴリに分け、進捗・触媒ファクター・栄養ファクターと呼ぶ。「進捗」という言葉は明確だが、「触媒」と「栄養」はわかりにくいかもしれない。これらを「コト」と「ヒト」で分けるとわかりやすいだろう。触媒はコトに関するもの、栄養はヒトに関するものだ。触媒ファクターは、権限と目標、それを達成するリソースがあること。逆に栄養ファクターは、励ましや感謝、尊重や友好関係といったものだ。

フィードバックにおける論点は「社員ごとの業務体験の質」をどう高めるかである。「進捗」はプロジェクトがマイルストーンに到達したといった大掛かりな印象を与える言葉だが、それに限らない。「時間をとってくれた」といったリソース提供を「触媒」にして進捗することや、「親切にされた、興味を持ってもらえた」といった承認欲求を満たす「栄養」をくれたことで進捗したといったものからも進捗は感じられる。例えば、自主性を持たされたプロジェクトで、問題に対処するために周囲が助力してくれることが大きな達成感につながり、「社員ごとの業務体験の質」は高まったという。逆に障害や邪魔が次々と入るような状況下では「社員ごとの業務体験の質」は落ち込む。些細なことかもしれないが、フィードバックではこの「進捗」の3カテゴリが肝だ。

フィードバックする適切な相手とタイミングを見極める

フィードバックは、与えれば良いというものではない。エドガー・シャインによれば、支援とは相手が必要なときに行うから良い支援なのであって、必要のない支援は自己満足だとする。過干渉をしても「良い上司」ぶっても人の成長はそれほど早くない。植物を成長させようとして水を与えすぎると腐ってしまうのである。ゲームの要素としては反映できなかったが、「相手にとってのフィードバックの必要性」は考えておくと良いだろう。

次に、フィードバックすべきでない相手がいることだ。ロバート・エモンズによる「Gの法則」は「感謝」について書かれた本だ。感謝には3つの段階があり、感謝(gratitude)・無感謝(nongratitude)・反感謝(ingratitude)がある。感謝の段階にある人はフィードバックを受けることで、恩恵を意識し、恩恵を受け取っていることを知り、行為に報いようとするだろう。無感謝の段階にある人は、恩恵を認識できず、恩恵を受け取っていることがわからず、行為に報いることができないだろう。更に、反感謝の段階にある人は、恩恵のあら捜しをし、恩恵を与えてくれた人を非難し、善意に悪意を持って返す。

フィードバックされる側はもちろん感謝のスタンスを持つべきだが、フィードバックする側は、反感謝の人もいることを知り、フィードバックをするべき相手なのかどうかも見極める必要がある。

フィードバックは「されていることに気づけない」ことがある

FB職人」の開発中、社内でのテストプレイでのインターンメンバーの発言に「フィードバックされる立場の側がやると自分が日常的にフィードバックをうけていることに気づける」というものがあった。

彼は、判定役としてリーダー役とメンバー役の会話を聞いていた。リーダー役が最初にねぎらいの言葉をかけ、最近の仕事についてコメントするのを聞くと、「あれ。この感じ、自分よく言われるぞ。あれはフィードバックだったのか。」と感じたという。

リーダーはメンバーの仕事ぶりが改善するようフィードバックしているつもりでも、実は、メンバーは単なる雑談やねぎらいの言葉としか捉えていないという状況が、現実の職場でもある。メンバーには申し訳ないが、これが前述した無感謝の状態だとすると、無感謝が感謝の状態に変わったという点で有意義だということになる。

それいけ!ソンタック」では、上司の暗示的な指示の意図を理解する「受信力」を扱ったが、本作でもそれと類似するような力を鍛えられることがわかった。「FB職人」はフィードバックされる側にも効果的がありそうだ。

フィードバックについての「企業と人材」連載記事を公開します!

フィードバック力向上ツールの開発背景(上)

フィードバック力向上ツールの開発背景(中)

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