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フィードバック力向上ツールの開発背景(上)

専門情報誌「企業と人材」でフィードバックを扱うために、2019年12月に発売した「ずっとも」第12弾「FB職人」の開発背景の掲載を見合わせておりましたが、その原案となった本記事を掲載します。全3回で掲載しますので、お楽しみください。

フィードバックはどのように定義されているか

このところ、フィードバックという言葉が大流行している。誤解している人が多い言葉だ。どのように定義するかで理解の仕方が変わってしまうので、僭越ながら中原淳先生の書籍「実践!フィードバック」を題材に少し考えてみたい。本書では、”フィードバックは比較的研究が日本では広がっていない分野だ”とされ、以下のように定義していた。

耳の痛いことであっても、部下の仕事の現状をしっかり伝えて、将来の行動指針を作ること

この定義は、よく読めば、「(部下の)仕事の現状をしっかり伝えて、将来の行動指針を作る」が主だとわかるが、頭に「耳の痛いことであっても」がつくことで、読み手次第では、「であっても」を読み違え、「耳の痛いこと」の「場合」ではなく「限定」として主従を逆転させて誤読して、「耳の痛いことを伝えるのがフィードバック」と感じる書きぶりとなっている。同氏の「フィードバック入門」には、

フィードバック研究の中には、「ポジティブフィードバックの方が良い」とか、いやいや「ネガティブフィードバックの方が良い」とか、効果のあるフィードバックが「ポジかネガ」かで研究者の間に論争があります。(p110)

とあるので、よく読めばわかるのだが、必ずしもネガティブなことを伝えることがフィードバックではない。この定義では、フィードバックは「情報通知」と「立て直し」である。

そもそもフィードバックという言葉には誤解が多い

ただ、これは学術的な話なのだと思う一方で、これだけだと誤解が生じそうなので、初めに3点書いておきたい。1点目は、フィードバックは叱ることではないということだ。Feedbackという英単語にはそのような意味はなく、英英辞典では、「進捗」を「通知」して「改善」する機能を中心として書いてある。つまり、進捗と(良い・悪い事実の)通知がフィードバックである。私見だが、フィードバックには「将来の行動指針を作る」や「改善」は含まないように思う。なぜなら、それはフィードバックする側が考えてあげるものではなく、質問などを通じて行動指針を作るのを「支援する」だけだからだ。フィードバック時には「進捗」を「通知」するだけで、その結果が「改善」なのである。

2点目は、フィードバックは制度上の面談で行うものに限らないということだ。フィードバックは非日常的な場面に限らず、日常的に使う技術である。制度上の面談には、大別すると①定時面談と②随時面談の2つがある。①定時面談は、上司が部下に行うもので、目標管理や評価に関するものや1on1など行うタイミングが定まっている。だいたい会議室などで行うだろう。もうひとつは②随時面談だ。ただし、随時面談を制度に定めている会社とそうでない会社があるため、随時面談は制度上の面談とも単なる会話ともいえる。「フィードバック=お叱りの場=密室で叱られる」というパラダイムでは、「面談」は会議室に呼び出されるような語感を持っている人も多いと思うが、単なる会話も面談だ。単なる会話を随時行うことを随時面談というなら、上司のみならず、先輩や同僚がOJTや同行・同席時になにげなく行うことだってあるだろう。発生頻度としては、随時発生する何気ない会話でのフィードバックが最も多い。

発生頻度が高い随時の何気ない会話は、人を育てるにあたっての量的な意味で重要なのは間違いない。研修よりも、日常の仕事で人は育つ。1on1などの制度上の面談は日常の仕事に見えるが、身構えた非日常の場だ。日常を離れた「ハレ」の場ではなく、折に触れて行う「ケ」の場面でこそ人が育つ。だから、そこの質を高めることは研修のゴールとして適切である。

3点目は、私見だが、フィードバックでの「進捗」の「通知」にポジティブもネガティブもなく、改善につながる良いフィードバックと、なんにもならなかったり気分を害するだけの悪いフィードバックがあるだけではないか。フィードバックは、工学や行動科学などでも用いられ、そこでは「正/負のフィードバック」という言葉を使うが、それを対人の話に適用したのがポジティブ・ネガティブフィードバックという言葉なように思う。

フィードバックを扱う原点となった「トナリノココロ」

さて、ここまでで、フィードバックは「進捗」と「通知」だという話はわかっていただけたと思う。では、「進捗」とは何か、そして進捗はどうすれば「通知」できるか。これをお伝えするには、少し当社での過去からの開発ログをなぞる方が良さそうだ。ここにあまりご興味がなければ、「フィードバックでは『進捗』と『通知』が肝」まで飛ばしていただきたい。

当社で、フィードバックを扱うゲームの原点といえば「トナリノココロ」である。フィードバックという切り口では、問題を解決していく過程で他者への「承認」を繰り返す心温まるゲームだ。「承認」とは「他者を認めること」であり、その種類には様々なものがあり、代表的なものとしては「存在承認」「行動承認」「結果承認」の3つであり、「トナリノココロ」のゲームではこのすべてを体感できる。

しかし、1度目のゲームでは「能力」、例えば「天才!」とか「頭がいい」といったものを承認する人が多い。これは良くない。喜ばれるかもしれないが、成長にはつながらないのだ。褒められた側は、能力を疑われないように努力を停止してしまうことがある。こうした1度目のゲームの結果を踏まえて、2度目のゲームでは承認する際の観点を追加する。

2度目のゲームでは「努力」にフォーカスする。「能力」ではなく「努力」を承認するように方向付けるのだ。成長を促すには「努力」を承認する必要がある。努力を承認した場合、より努力するようになり、行動が強化されるため効果が高い。しかし、能力を承認する方が簡単なので、能力を承認する傾向がある。このため、2度目のゲームは正直なところやりにくく、難易度が高い。その中で、やり方に悩みながらも工夫して「成長」をもたらす承認を何度も実践し、うまい人のやり方を取り入れることで、承認の種類と幅が広がる体験ができる。

個人的に「トナリノココロ」で得られたことは、その実践で褒め上手な人を数多く発見できたことだ。「こうやってフィードバックされたら成長できるだろうな」という褒め上手の発言からはいつも学ばされる。

褒めても行動変容しない場合に、言いにくいことをいかに伝えるか

ただ、「トナリノココロ」は、体験しないと商品性がわかりにくい一方で、体験に12名が必要だ。このため、多忙化が進む中で、徐々に売りにくい商品になっていくことが予見できた。この際に、「トナリノココロ・ザ・カードゲーム」として考案されたのが「解決昔話」だ。「解決昔話」では、投票して「問題解決」に関する良い点を投票・フィードバックする。ここまでは基本的に良い点に焦点をあてていた。ただ、褒めるばかりでは、相手を気持ちよくさせることはできるが、行動変容に繋がりにくいという点に問題意識があった。

ここから「イエナイヨ」で潮目が変わる。「イエナイヨ」からはどちらかというと、前述の「耳の痛いこと」に目を向け、相手の行動変容を促すために「いいにくいことをいかに伝えるか」を考える上で「アサーション」を扱っている。ただ、もちろん、相手に何かを発信する際には良くなかった点だけではよろしくないので、「イエナイヨ」のフィードバックは、発言に対して「良かった点」「良くなかった点(要改善点)」を抱き合せで伝達するようになっている。お客さまからは、「これ、フィードバックそのものだよね」という指摘が多々あり、「アサーション」がフィードバックの分野に包含されるという認識に至った。

【コンテンツ】フィードバック力向上ツール「FB職人」

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