当社は、本日で第13期の期末となり明日から新しい期に入ります。平素は期末に何か書くことはなく、年頭に振り返りを行っていることが多いのですが、今期はまるで創業期かのようなスピード感で様々なことが動いているため、できる限り詳細に書き残しておきたい(競合さんも見てらっしゃるので、全部は書けないのですが)と思い、忘れてしまう前に書いておきます。以前、直近の活動をまとめているので、重複もあるかと思いますし、超長文ですが、ご笑覧いただければと思います。
とても長いので、ざっくり見出しをつけておきます。
- 会社によって受け入れるリスクが異なっている
- オンラインやブレンデッドラーニングではない道の模索
- 研修内製化×ゲームだからこその難しさ
- 「最高」を目指すためのゼロからの挑戦
- 「講義型研修」という当たり前の悲願
- オフラインでも安全にという新たな道
- 活動の裏にある提供体制の整備
- ゲーム研修を今後どうするか
会社によって受け入れるリスクが異なっている
未来について考えることの多いタイミングです。未来を考えると言ったときに、一つの未来を考える人もいれば、複数の未来を考える人もいるでしょう。
新型コロナウイルスが流行し始めた当初、私は大きく3つの中期的な未来を想定しました。一つ目は、流行が収束し元通りの世の中が戻ってくる未来。二つ目は、世の中がリスクを受け入れつつ徐々に元通りになっていく未来(リスク保有)。三つ目は、元通りになる見込みが立たない(リスク回避)未来です。
これらに対して、対応策を考えておく必要があるのはもちろんですが、現時点では、どれかひとつに落ち着くことが考えにくいと考えるようになりました。例えば、A社は早々に復旧し、B社は段階的に復旧、C社は復旧を留保するといった形です。業態や地域差もあるでしょうけれど、各社でリスク許容度や施策に濃淡がある中で、人材育成を強める会社もあれば、延期する会社もあれば、中止する会社もでてきます。まるでリスクマネジメントの研修で登場するリスクの許容・回避策のリアルケーススタディを見ているかのようです。(こうした中で「長期的に」起こってくるであろうパラダイムシフトについては、先日コラム「新型コロナによるパラダイムシフト」に書きました。)
私たちに求められるのは、こういった状況でも「研修をやりたい」と考える会社さまをできるだけ支援できるようにどれだけ幅広な想定をし、限られたリソースの中で一つづつ手を打っていくことかなのではないかと思います。限られたリソースの中で手を打つことは、やらないことを決めることでもありました。
オンラインやブレンデッドラーニングではない道の模索
期末のタイミングなので、本来は通期を振り返るべきなのですが、今期はやはり新型コロナウイルスについて書いておくべきかと思います。当社の上期は昨対で売上2割増の高水準で推移していました。費用もかなり増えている一方で、好調だった「ずっとも」に関連するお問い合わせの増加に開発を抱えながら対応することが難しく、3年予定だった「ずっとも」を2年で中断する苦渋の決断をしたのが上期のハイライトでした。
そして、下期に入って、早々に新型コロナウイルスの足音が聞こえてきました。まず、感染拡大で状況が刻一刻と変わる中で私たちが率先して行ったことが2つあります。一つは、プロジェクトの中断です。ずっともが終わったらやろうかなと思っていたものを3つほど中断しました。研修開発は典型的な先行投資なのですが、開発しても使う人がいなければ投資を回収できないですし、危機対応への時間を作る必要がありました。
もうひとつは、状況把握のためのアンケート調査です。状況がわからない中で、闇雲に「オンラインだ!」と旗を降ることはできません。それではまるでパニック映画で死路に迷い込む人々のようです。アンケートには驚くほど多くの方々にご回答頂き、結果をシェアさせていただいたことで、社会貢献ができたと思っています。このご回答結果の洞察を踏まえ、続けざまに対策として、4つの施策(レンタルツールの期間の延長、買取ツールの交換対応・一時的なレンタル化、会議室の無償開放)を行いました。結果的に、事態の悪化のペースが早く、それらは奏功しませんでしたが、そこで得られた定性コメントが実はとても参考になりました。それらがあったからこそ、私たちはオンラインやブレンデッドラーニングだけではない道が模索できていると思います。
オンラインやブレンデッドラーニングは上記の3つ目の未来(外出が制限される環境)では、支配的な位置を占める施策です。ただ、この分野で真っ向勝負をすることが本当にできるのか。私たちは、オンラインやブレンデッドラーニングで先行する大手各社と同じような付加価値を自分たちの事業領域である「研修内製化」でだせるのか。これを問わなければならないタイミングがあったように思います。
お客様は、内製であろうが外注であろうが、まずは目先に迫っている新入社員に学びの場を提供したいわけです。それができれば手段は問わないというのが今春の状況だったように思います。その点では、「研修内製化」というドメインの足元が一時的に極めて揺らいだ時期だったように思います。内製と外注の境目がとても曖昧でした。
研修内製化×ゲームだからこその難しさ
私たちは研修業界の中でもとりわけハンドリングが難しいポジションです。というのも、ドメインが研修内製化であるということは、お客さんがリモートで研修提供ができることが前提です。そうでなければ、私たちのツールを使ってもらうことはできません。ただ、オンラインツールのセミナーが現在も活況ということは、リモートで軽々研修ができる段階に到達するには随分な時間がかかっているし、これからもまだまだ時間がかかるように思います。一朝一夕に世の中が一気にオンライン化するわけではないのです(すると思っていましたが・・・)。
現時点でも、オンラインのシフトができている会社ばかりではなく、日常が戻ることを願っている会社もまだまだ多いようです。今月に入って、一気にオフラインの問い合わせが増えていることでもわかるように、3/4月では、ゲーム研修のオンライン化ができたとしても、その使い手はリテラシーの高い一部の方に限られたのではないかと思います。そういうと、「だったらリモート研修やればいいじゃない」と言われますが、信念を捨ててそれをするほどには窮していません。研修内製化というぶれない軸を持って活動すべきです。
また、もう一つの難しさは、私たちの主力商品がゲーム研修であることです。ゲームという手段を用いる背景には場作りがあると思いますが、私たちは集合して手が届く状態に最適化してゲーム研修を作り込んできています。裏を返せば、オンライン用には作っていません。
だからなのか、ゲーム研修のオンライン化についてのお問い合わせは「なんとかしてできないか」というお声が続々寄せられる状況が生まれていました。
以前も書きましたが、ゲーム研修は最も開発が難しい研修ツールです。ゲーム研修にも色々とあって、グループワークをゲームと呼んでいたり、単なるカードセットをゲームと呼んでいることもあります。私たちは、そういった比較的簡単に制作できる「ゲーム」と名前のついたプレイフルラーニングは開発してきませんでした。練りに練ったルールや道具を用いて、私たちにしかできない付加価値を追求してきています。このため、一つ作るだけでも相当な時間がかかります。
開発はリソースを割けばなんとかならないこともないのですが、その当時、多くの研修会社さんが「無料で対応」をしていたためか、多くのお問い合わせが、今あるゲーム研修を「無料で」オンラインにできないかというものでした。お客さんの気持ちはわかりますが、私たちは霞を食べて生きているわけではなく、ご支援したいという気持ちはありながらも、問い合わせが殺到していて、既存の仕事を抱える中で判断する必要がありました。ビジネスとして成立しなければ稼働しにくいところがあります。なので、苦渋の決断ではありましたが、早々に「ゲーム研修のオンライン化は当面受託しない」という宣言をしました。
「最高」を目指すためのゼロからの挑戦
私の経営姿勢によるものですが、「オンラインをやってほしい!」と言われても、オンラインに関する知識がほとんどない状態で、研修内製化の支援、そしてその手段であるゲーム研修のオンライン化をするなんて、正直おこがましいと感じています。私たちのサービスはプロフェッショナルサービスです。まして、オンラインツールの使い方セミナーなんて、おためごかしに他なりません。そういったものは、大事なメンテナンス活動ですからマイクロソフトやzoomの代理店がやればよいのです。私たちは、私たちが「最高だ」と思える研修だから提供しているわけであって、それが「最高だ」といえるか疑問がある状態で提供するのでは、私たちが私たちではなくなってしまいます。
なので、私たちがまず目指したことは、自分たちがオンラインで満足できる研修を提供できるようになることでした。もともと頂いていたお仕事や、こうした活動を積み上げていくための必要なリソースの確保、情報収集、緊急事態宣言の発令によるテレワークへのシフトやシステムトラブルなどがあり、概ね1ヶ月かかってしまったのですが、そこから3つ目の未来に対応するためのウェビナーに取り組みはじめました。ここでは、各回でブラッシュアップのための取り組みを決め、表面的には見えなかったかもしれませんが、裏の仕組みを徐々にブラッシュアップしていきました。約1ヶ月かけて私が求めていたクオリティで「講義型」研修が実施できる技術的水準に達したように思います。(オンラインでは音声優位になってしまうという状況もクリアできたように思います。)正直なところ、設備面で各種リソースを確保したために、ここにはスライド作成などのような追加的な時間投資をすることができず、過去の資産である資料をうまく用いて実施したのですが、多くの方に面白がっていただけて、良い場になったように思います。
なお、研修内製化支援業として、上述のセミナー動画は近日VOD形式で公開しますが、動画化を考えていた研修参加者向けの動画提供は優先順位をさげました。「動画を見てもらうにはノウハウがいる」と強く感じたためです。ブレンデッドラーニングは、バズワードになっていますが、海外では数年前からバズワード化している一方で、自分が実際に体験した限りでは、相当な実践知が必要で、一朝一夕にできるものではなかったためです。
「講義型研修」という当たり前の悲願
さて、一旦、これで3つ目の未来に対応する「第一歩」が整いました。ただ、「私たちはオンラインで話せます」ではビジネスとして成立しません。上述の通り、私たちは「ゲーム研修のオンライン化には当面受託しない」のです。なので、もともとゆっくりと進めていた「講義型研修」のプロジェクトを一気呵成に進めることにしました。講義型研修のプロジェクトについては古くは2015年くらいから取り組みはじめ、2018年に加速を付けるべく「マス-カレイド」というビジョン設定で明言したのち、少々開発が立て込んでしまっていたことと、技術的な問題があってトーンダウンしてしまっていたのですがある意味では新型コロナウイルスをきっかけに急激に進捗しました。これが先日、冷やし中華のようなトーンでお客さまにメールをお送りした「講義型、はじめました」です。
講義型研修(というか、講義だけでは研修にならないので、講義モジュールが適切ですが)は2009年くらいからずっと作りつづけており、開発の技術的が2015年くらいからぐっと上がってきていました。各種研修のうち、定番だと感じるものを10種公開できたのは、ある種の悲願でした。(手前味噌ですが、全てゼロベースで考えていますので、他社と全然似ていないのが売りだと思います。)これらは、講義型ですからオンラインと相性がよく、近日何らかの発表ができると思います。
オフラインでも安全にという新たな道
さて、ここまでは、3つ目の未来に対応するものを紹介しました。ただ、オンライン周辺は、私たちは対応しなくても、きっとどこかの研修会社さんが自然に埋めてくれて、プレイヤーは変わるかもしれませんが、落ち着くところに落ち着くと思っています。私たちの強みであり、期待されていることは、やはりゲームを作った場作りであることは否めません。それが活きる場はやはりオンラインではなく、2つ目の未来であるリスクが許容されつつある未来でした。ゲームを使った場作りを行うには、ソーシャルディスタンスに配慮しなければなりません。それに対して、私たちが着目したものには2つあります。1つは、以前から取り組んでいた「少人数」「短時間」です。こちらは少々早すぎた感はありましたが、今でも有効な方法だと考えています。
もうひとつは、「カードの大型化」です。爆発的に普及してほしいという願いを込めて「爆発的膨張」を意味する「ビッグバン」をもじり、「ビッグ版」としました。伺った話によると、緊急事態下であっても、集合研修を強行した会社も結構あるようです。そして、4-5月に研修をあまり行わず、一旦保留にしていたり、前を向いて聞くだけなので、感染リスクの低い講義型研修を実施していて、ディスカッションとかは控えているという会社もあるようです。グループワークの阻害要因は「ソーシャルディスタンス」に配慮した状態で研修を実施できることではないかと考え、ビッグ版を開発しました。(ただ、大きくしただけのようにも思えますが、画像の質が高くなければ大きくしても微妙なできになってしまいますし、カードに加えて、ボードやコマなどをどうするかなど、検証作業が膨大でした。)
オンラインになることによって、発達の最近接領域や正統的周辺参加がうまく機能しなくなっています。私たちは、まずは二番目の未来である段階的なリスク許容時に、スムーズにお客さまが研修を開始できるようにサポートをできればと思っています。
活動の裏にある提供体制の整備
さて、ここまでは、目立つものについてだけ書いてきました。ただ、こうした新しいものを提供することは、ラインナップの増加を生み、そのロジスティクスを整えなければなりません。例えば、とあるゲーム研修があり、そのオンライン版はいくら?ビッグ版は?どうやったら買えるの?決済は?講義を付属させると?といったラインナップが増えるごとに飛躍的に増える場合分けを想定しなければなりません。それには、料金体系のシンプル化が必要でした。もともと、買取とレンタルで混乱があった状態です。こちらを統合すべく、買取の3月末での中止を決定しました。また、シンプルかつ新時代に即した料金体系に変更し、今後のラインナップ増加に備えられるようにしました。そのために、意図に合わないコンテンツは、人気コンテンツの「トナリノココロ」であってもラインナップから外しています。
このようにして、どのようなお客さまの声にもできる限り応えられるように一歩ずつ着実に歩みを進めています。
ゲーム研修を今後どうするか
最後に、「ゲーム研修のオンライン化は当面受託しない」について改めて書いておきます。まず、以前もどこかに書きましたが、このように書くと、「カレイドはオンラインやらないってさ」「ゲーム研修はオンライン化しないらしいよ」という読み取りをされることが多いのですが、そうではありません。「当面」というのは、将来的には行うことを否定していません。また、「オンライン化」についても「ブラウザ上で行うようなもの」は想定しておりませんが、「半オンライン化」と仮称している部分的なオンライン化については否定していません。単純に今あるようなものをまんまオンラインに持ってくるのは、もともと想定していた用途が違うため否定的ですが、オンラインでやるのであれば、オンラインに適した時間・やり方を考えたいと思っています。また、「受託」のような個別のお客様からのご依頼には応じられませんが、会社として取り組むことは否定していません。更に、これまでの発信から、手順を踏むために徐々に布石を打っているということはご理解いただけると思います。意外性のあるリリースも直近に控えています。
新型コロナウイルスという今をなんとかしようともがく中で、どれだけ知識や知恵が生まれたか測りしれず、機会に感謝しています。
今後のカレイドソリューションズの打ち手にぜひご期待ください。
公開日: 2020年6月30日