インターンの和田です。
ゲーム研修を提供する中で、以下のような声を頂くことがあります。
「ゲームで楽しんでもらいたい」
「ゲームを通して成功体験を積ませたい」
ゲームは楽しいもの、というのは一部ではあたっている一方で、ゲームには勝者・敗者が一般的に生まれることから全員に対して好ましい結果になるとも言えません。
しかし一方で、ゲームには「失敗すればするほどやりたくなる」というおもしろい性質があります。
そんな性質について説明した本に、「しかめっ面にさせるゲームは成功する 悔しさをモチベーションに変えるゲームデザイン」(イェスパー・ユール 株式会社ボーンデジタル)という本があります。
本書では、ゲームは解けないものであるほど面白いとし、ゲームが不快であるほど面白い理由を「失敗のパラドックス(逆説)」として説明しています。
この記事では、本書で語られている「解けなくて不快」なゲームほど楽しいというこの一見矛盾した現象について、書いていきます。
失敗のパラドックス -失敗するのに取り組んでしまうゲーム-
テレビゲームをやる時に、一回も失敗することなくクリアできた経験がある人は少ないでしょう。
当たり前と思われるかもしれませんが、これはゲームが失敗を前提として作られているからです。
失敗は通常は不快な現象です。しかし失敗を求めてしまうのはよく考えたらおかしなことですよね。
この現象は「失敗のパラドックス」と呼ばれています。
「失敗のパラドックス」はまとめると以下のような矛盾をはらんでいます。
- 人は一般に失敗を避けようとする
- 人はゲームをプレイしているときに失敗を経験する。
- 人は、通常なら避けるような経験が待っているにもかかわらずゲームを求める。
人間は失敗を繰り返すような難しいゲームの方をどちらかというと好むということです。
悲劇のパラドックス -実はゲームと似ている-
さて、話を失敗のパラドックスに戻します。
失敗のパラドックスと並んで有名なパラドックスとして「悲劇のパラドックス」があります。
「悲劇のパラドックス」とは以下のようなものです。
- 人は不快や悲しみを避けようとする
- 人はドラマや映画などの悲劇を見ると、不快や悲しみを経験する
- 人は通常なら避けるような感情であるにも関わらず悲劇を求める
これはカタルシス(浄化)として説明されます。つまり、人は日常の不快や悲しみを、ドラマや映画の悲劇を見ることによって消化しているということです。
ここで注意したいのは、ゲームにはこのような浄化の性質はないということです。
ゲームにおいて失敗や負けによって感じる悔しさや絶望は、そのまま悔しさや絶望として感じます。
まとめると、一見すると同じようなことを言っているように見えますが、2つのパラドックスは同じものではないことが分かります。
苦痛を伴うアートのパラドックス
では「失敗のパラドックス」と「悲劇のパラドックス」は人間の性質として矛盾しているのでしょうか。
哲学者アーロン・スマッツはこれらの大きな総合としての「苦痛を伴うアートのパラドックス」によって人間の性質を説明しています。
- 人は苦痛の感情を引き起こす状況を求めない
- 人は一部のアートに触れることで苦痛の感情を経験する。
- 人は苦痛の感情を引き起こすとわかっていてもアートを求める
アートのパラドックスによる願望の説明 -直接的願望と芸術的願望-
このアートのパラドックスを、用いるとゲームと悲劇はそれぞれ直接的願望と芸術的願望の対立として捉えることができます。
ゲームにおける矛盾する願望
ゲームにおける二つの矛盾した願望は以下のように分けられます。
<直接的願望>
失敗を避けたいという願望
<芸術的願望>
部分的な失敗を含めた経験に対する願望
悲劇における矛盾する願望
悲劇における願望は以下のように分けられます。
<直接的願望>
主人公を成功させたいという願望
<芸術的願望>
芸術体験の一部として主人公に苦しんでほしいという願望
このように直接的願望、芸術的願望のラベルで分類することにより、ゲームにおける「失敗のパラドックス」が人間の性質として説明できます。
芸術的願望が、取り組むモチベーションを生み出すということですね。
まとめ
この記事では「しかめっ面にさせるゲームは成功する 悔しさをモチベーションに変えるゲームデザイン」(イェスパー・ユール 株式会社ボーンデジタル)において説明されている「ゲームは不快なほど面白い」という矛盾について紹介しました。
この本では実際の様々なゲームにおける失敗の在り方についても考察されていて非常に読みごたえがあります。ゲームの設計に興味がある方は読んでみることをお勧めします。
ゲームで研修を行う価値は、成功体験を積ませるところにあるだけでなく、参加者に生まれるこうした「中毒性」にあることが分かっていただければ幸いです。
研修を選ぶ際には「解けなくてイライラするかどうか?」を基準に考えてみるのも、研修効果を考える上ではいいかもしれません。
カテゴリー: メンバーコラム
公開日: 2020年3月31日