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目標設定学習ツールの開発背景(中)

目標には種類がある

次に、「基準」と「程度」を説明したい。ただ、ここでは「業績目標」と「行動目標」の理解が前提となるため、これについて先んじて解説を行う。

目標には種類がある。代表的なのは、業績(成果/結果)目標や行動(遂行)目標などだろう。経営者であれば、業績評価だけで十分で、経営者を行動で評価するのは気持ち悪いが、一般社員の評価では、行動にも目を向けなければならない。

当社ではこれを成果と行動のマトリクスとして整理しているが、行動せずに成果がでているのは「まぐれ(fluke)」であり、行動していて成果がでないのは「不運(unlucky)」である。こうしたものを「評価から」除外するために行動目標は重要だ。

「高1の数学の復習を頑張るよ」をどのように評価するか?

さて、話を元に戻そう。「高1の数学の復習を頑張るよ」といわれたら、到達状態を聞きたくなる。ここには、上で説明したように、業績の状態である業績目標と行動の結果の状態である行動目標が2種類登場してしまう。更に「頑張る」は目標ではないので目標の表現に変えなければいけない。「クラスで10番以内になるよ」は最終的な「到達状態」つまり業績目標だ。ここでの基準と程度はなんだろうか。基準がクラスの順位に、程度が10に定まる。

ただ、「クラスで10番以内になる」といわれても、蓋を開けないとわからない。中間成果(サブ目標)が書かれておらず、期末試験が終わるまで結果がわからない。また、周囲の頑張りにも影響を受ける。親としては「どうやって10位以内になるの」と聞きたくなるだろう。

ここまでの話をまとめると、「クラスで10番以内になるために高1の数学の復習を頑張る」となる。このままだと、2点の問題がある。まず、行動を管理できない。何をどう頑張るのだろうか。具体的な手段が書かれておらず、「頑張る」にとどまっており、不十分な行動目標だ。これを明確にし、行動目標を作らなければならない。もうひとつは、途中の状態がわからないことだ。これは段取りの話とほとんど同じだ。

ロジックツリーとピラミッド構造

段取りは論理である。段取りを立てる際には、「ピラミッド構造」と「ロジックツリー」という思考ツールを用いる。

1つ目の「ピラミッド構造」は、因果関係を把握する際に用いる。結果には原因があると考えると、業績という結果の前にはその原因となる行動がある。例えば、「毎朝、問題集の問題を5問解く」「6時に起床する」などが行動だ。ただ、これは行動であり、行動目標ではない。これを「行動目標」にするには、動作表現を状態表現に換える必要がある。「毎朝ドリルを5問完了している」「毎朝6時に起床している」とすると良い。ちなみに、ここでの「基準」は問題数・時刻になり、「程度」は5問、6時となる。

2つ目の「ロジックツリー」は大きい目標を細分化する際に用いる。業績目標を細分化すると、中間成果(サブ目標)として、「中間試験で上位15位に入る」などとなる。中間成果は、業績目標を細分化したサブ目標なので書きやすいだろう。

程度・基準とは何か

改めて程度と基準を詳述したい。基準の方が程度よりも先にくるが、理解を促すために程度を先に説明する。

程度は、英語だとdegreeやvolumeであり、それを問うときは、どの程度、つまりhow muchで問う。程度は、程度を記載する必要がある目標(後述する定量的な目標)の場合に、不明確さが問題になる。程度を記載する必要がある目標は多くの場合、「定量的な目標」だ。程度の明確化は、程度を表す副詞や形容詞を定量化し、5問・20%などの定量的な表現に変えることになる。例えば、「ドリルをできるだけ多くやるよ」という場合、「できるだけ多く」を「5問」という量や「20%」などの率で示す。

もう一方の、基準(standard)とは、程度よりも手前の「ものさし」の話だ。ものさしとはなんだろうか。例えば、先程の事例では「順位」や「問題数」がものさしだ。問題数という基準で評価し、程度が5問を超えていれば合格になる。

注意点は、100%や0を程度としないことである。日を基準として、程度を「毎」とすると、やらない日が1日でもあればできなかったことになる。この程度は高すぎて達成が難しい。また、言葉遊びだが、毎日5問は、毎日測定するのか平均5問できていればよいのかもわかりにくい。長期的に評価をするならば、50日で平均5問を言い換えて、250問とする方が、「進捗」は測定しやすい。

「クラスで10番以内になる」のはいつまでか?-期限とは何か-

さて、ここまでをまとめると、業績目標は「クラスで10番以内になる」、行動目標は「問題集を5問解けている」だ。ただ、これをいわれたら「いつまでに」と聞きたくなるだろう。それに対して、「今学期の期末試験で」となれば期限も決まる。

期限を定義しよう。まず、期限とは一般的には「終わり」である。類似の用語に、始まり(開始日)と終わり(期限)で規定される「期間」がある。

目標管理などでは、期末を期限とすることが多いため、自明として割愛されることがある。早期に期限を迎える場合に明示が求められる。ただ、目標は、目標管理のためだけではない。資料作成など、数日単位のタスクやTODOもある。こうした場合に「期限」つまり納期を定めることが大切だ。

さて、ここまでの話をまとめよう。「勉強を頑張る」を補完・明確化したところ、業績目標は「今学期の期末試験でクラスで10番以内になる」となり、行動目標は「期末試験までに(高1の数学の問題を)250問(平均5問/日)解けている」という状態を目指すことになった。これなら「握れる」目標だろう。ただ、現実の企業の目標設定では、目標に記載されていない「漏れ」があったり、「不明確」な表現があったりする。こうした状態の解消を目指すのが13GOALSである。

わかりやすくなればなるほど価値は矮小化される

「何をどこまでの範囲で行うのか」「それはどの程度できたらできたと言えるのか」「その基準は何か」「いつまでにやるのか」という話が目標の明確化であり、程度が大きいほど、チャレンジングということになる。

抽象度の高いものは、高邁な理想に近く、取り組む意欲が湧く。ただ、明確化を進め、具体的なものになるほど、範囲が狭くなることは注意しなければならない。

私は目標設定が好きではない。それは、目標化が行動を縛り、自由なやり方を阻害するからだ。「提案書作成業務で当社のトーンアンドマナーに沿ったパワーポイントの操作スキルを期末までに社内のe-learningテストで合格する」といわれたら、「私の仕事ってそんなものが目標でいいの?」となる。こうなったら、取り組みたいと思えない。

そもそも、自分自身が大きな方針で自由に動きたいタイプだし、白紙アプローチで各自が自由に考えるような組織を理想としている。ただ、経営に実際に携わる中で、目標がないと動けない人が大半だと知った。だからこそ、改めて目標設定を考えなくてはならなかった。目標設定は、今後も深めたいテーマの一つである。

本開発背景での積み残しを書いておきたい。目標設定で、多くの方がイメージする「SMART」に言及していない。また、定量目標以外にも、定性目標がある。これらも整理する必要がある。定性目標とはそもそもなんだろうか。また、定性目標の「明確化」はどのように行えばよいのだろうか。

また、「チャレンジング」は、SMARTにも登場しないが重要とされる。それを包含する新たな枠組みはないのだろうか。

また、人はマインドセットの違いによって異なる目標の立て方をすることを発見した。目標設定シートのようなフォーマットなしで、目標を立てようとすると、数値や状態などの到達状態を目標とする人がいる。一方、業績を踏まえつつも、日々の行動を目標にする人もいる。

ベンチャー組織の体臭がすると言われそうだが、「会社には業務はない、問題があるだけだ」という話をたまに社員にする。ベンチャーでは、問題が設定され、それを解決するために業務が生まれる。業務を与えられるのではなく、問題解決スキルを駆使して業務を作るのである。だから、業務は固定的ではなく、プロジェクト的である。ここでいう、問題と業務の関係性のことを「課題」と「課業」という。

課題はプロジェクト的なものであり、上述の業績目標に近いものだ。「○○が解決できている」というものだ。逆に、課業はその目標を達成するためのルーチンだ。

自分が取り組む業績目標ばかりが業務ではない。課業は、マネジメントのやり方が違う。こうしたものも含めて考えていくのが今後の私のマネジメントテーマである。

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