先般、企業の研修に参加することで若者が命を落とした件の訴訟がニュースになり、研修業界の関係者の間では話題として取り上げられました。
本件は非常にセンシティブな話題なので、軽々しく書くべきではないようにも思うのですが、人材育成にとって重要な話題だと思いますのであえて取り上げたいと思います。
ご関係者を不快にする内容だったとするならば予めお詫びさせていただきます。
「自己啓発セミナー」の蔓延
ニュースを読んだ多くの方の反応は「まさか!」という反応でした。ただ、私の反応としては、「ああ、自己啓発系を使っていたなら遅かれ早かれ自殺者はでるよね」というものでした。
ご存知の方は多いかと思いますが、日本国内でも自己啓発セミナーによる自殺に関する訴訟は2000年以降だけで少なくとも数件は起きています。訴訟に至らなかったものも含めるともっと多いのではないかと思います。
悪質な自己啓発セミナーには、米国のカルトの洗脳手法をベースにしたものが多いと聞きます。自分の存在を徹底的に壊すことで新しい価値観を入れやすくするという点で共通していることがお分かりになると思います。こうした手法が、米国から日本に渡り、それから長い月日が流れ、個人向けの自己啓発セミナーから企業向け研修まで、幅広く入り込んでいます。
洗脳型研修では考えさせないことを目的とする
人口ボーナス期で考えずに盲目的に会社の言うことに従えば結果が出た時代では、こうした手法が好まれた時期もあります。また、今でも思考することを求められていない職種では「組織に従順であること」を求める結果、こうした手法が奏功することもあり、いまだに使われているようです。
そんな馬鹿なと言われるかもしれませんが、私はゲームという”考えさせる研修”を扱っている関係でそのあたりの風当たりが強く、「考えるとかうちの従業員には必要ない」と何度も婉曲的に言われました。
以前テレビでとある飲食店の研修が人間的でないと叩かれましたが、あれも類似のものでしょう。
誰もが自己啓発系研修のリスクとは無縁ではない
むしろ、私が怖いなと感じたのは、誰がそうした自己啓発セミナーのバックグラウンドをもっているかがわからなくなっていることです。
例えば、今回の研修会社出身の方が自社の講師募集に来ても、私には自己啓発セミナー系の会社の方だとは判断できません。(私はこうしたリスクを避けたいので、研修内製化をビジネスにしていますし、講師を頼むことがあっても親しい人間にしか仕事を頼みません。)公には書けませんが、創業メンバーもそうした会社の出身者だけれども人気のある研修会社がいくつもあります。
皆様は、自社が外注している先のバックグラウンド、使っている講師のバックグラウンドを把握しているでしょうか。
それを行っていないとするならば、それは対岸の火事ではないかもしれません。ポジショントークかもしれませんが、私は以前から重要な研修を外注することのリスクを問いています。それは、教育には洗脳性があるからです。外部パートナーに頼る研修会社は、こうした業務提携リスクと無縁ではなく、研修会社に頼る事業会社もこうしたリスクを無縁ではいられません。
私が思うに、学校教育で教える知識は重要だからこそ監督官庁があり、そのあり方が議論になります。企業では何を教えるかを人事担当者が判断します。また、スキルにおいてもその必要性を精査し、教育が行われるでしょう。
マインドの教育と「洗脳」
最も難しいのが「マインド」です。学習棄却(アンラーニング)が重要だと言われますが、過去に学んだことを一旦忘れて新しいことを学ぶのが転職者の壁であり、そこがうまくいかないから年長者が嫌われるといわれます。これは、年長者になればなるほど、仕事の仕方のみならず、考え方が自社の「ウチの会社の常識」に染まらないからだといえなくもないでしょう。
中には、「アンラーニングはどうすれば実現できるだろうか」を突き詰めて考えた結果、自己啓発セミナー型の手法が解決策だと考える人がいるかもしれません。安易に自己啓発型の手法を用いてしまうといらぬリスクを抱え込むことになります。
社内講師でも同様です。以前、コラムで「コンテンツには作者の想いが入る」 にも書きましたが、考え・思想・想いが多分に研修内容には反映されます。これらが合致するかを審査することなく、研修担当者個人の考えで研修が実施されていることもあったりします。
研修を社内外に依頼するときには、「講師のトーク」という事前に内容把握ができない要素を極力減らし、出来る限りスライドに落とし、誰がやってもある程度均一になるようにした方がリスクを避けることになるのではないかなと思います。
※本記事、炎上したら消すかもしれません。ご了承下さい。
※追記:講師のトークと「」をつけているのは、事前に内容把握ができないものの代表例として書いています。講師がトークをすることそのものを否定するものではありません。
公開日: 2017年8月15日