評価のズレを軽減するための一般論
評価のズレの軽減には、他の管理職のものの見方・考え方を知ることと評価バイアスを知ることが効果的だ。
まず、他の管理職のものの見方・考え方について説明しよう。どのような成果、どのような行動を価値のある目標と設定するかは、ある種の価値観が反映された制度に基づいてなされる。また、それに対する評価もある種の価値観が反映された制度によってなされる。現実には、管理職には経験豊富な管理職から初任の管理職までがいるし、人にはさまざまな個性があり、キャリアも異なるため、ものの見方・考え方が異なる管理職がいることは避けられない。特に、組織における価値が分かっていない管理職がいることはあるだろう。こうした管理職に、他の管理職のものの見方・考え方を理解させることで、価値合理的な判断が理解できるようになる。これはつまり、この組織においては、どう評価するのが『普通』で『正しい』のかを知ることである。その組織の評価制度の裏に潜むどこかの誰か(もしかしたら実在しないかもしれない)の価値観を忖度し、大きくはズレないようになることが重要なのである。
もう一つは、評価バイアスを知ることだが、人は、自分の判断が正しいと正当化する傾向がある。このため、多くの場合、バイアスがあることを考えようともしない。これは教育の潜在ニーズである。評価バイアスがあることを知り、それに意識的になることで歪みが多少なりとも軽減される可能性がある。
余談ではあるが、評価に関する教育は一般社員のうちから必要だと考えている。昨今は、評価者・被評価者双方に評価に関する研修をすることも増えてきている。特に「人をどう見るか」についてはまさに社員の成長にとって重要な学習項目だからだ。この領域は、例えば性格心理学 に関する研修などがカバーしているが、「人をどう理解するか」は本ツールでもカバーでき、かつ「ポジションチェンジ」 の効果も期待できる。単純に人間理解を研修で行うよりも全社員にとって重要な目標管理と絡めた方が有益だと思うのは私だけだろうか。
評価バイアスとは
さて、ここまで評価バイアスについて説明せずにきてしまったので、改めてバイアスについて説明しておこう。「人の認知によるズレ」を説明するのが「バイアス」である。人の評価は判断によってなされる。人間である以上、判断に主観が入ることは避けられない。こうした判断などの物事の捉え方(認知)に生じる歪みを認知バイアス(bias)という。認知バイアスについてはノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンの書籍 などにも詳しい。そして、認知バイアスの中でも特に「評価」に際して起こるものを慣用的に評価バイアスと呼ぶ。
例えば、ABCと書いてあるときにBなのか13なのか(形状が似ている)を悩む人はない。人は文脈を瞬時に判断し、Bであると判断するからである。このように人はだまされやすい。
評価バイアスは、カテゴリー名である。評価バイアスという何かがあるのではない。列記すると、評価バイアスには以下のようなものがある。①ハロー効果 (逆も)、②寛大化・厳格化・中心化傾向 、③対比誤差 、④論理的誤差 、⑤近接誤差 、⑥直近誤差 (逆も)⑦その他:性差 、異質へのバイアス 、数値化できるものへのバイアス など・・・
ちなみに今回の副題は「評定誤差解消ゲーム」である。マーケティング上の理由と、軽減という言葉よりも解消という言葉の方が管理職にとって重要性が伝わるだろうという趣旨で「解消」と書いたが、バイアスは人間である限りかならず起こるため、なくすことはできないという点は、付記しておきたい。
即時フィードバックの威力
さて、ここまで長々と開発背景と離れた話をしたが、ようやく話を本筋に戻そう。
ゲームの利点の一つに即時フィードバック がある。ここでいうフィードバックは、「行動に対して結果が返ってくる」という意味である。フィードバックという言葉は、他者に助言をしたり、耳の痛いことを伝えることだと勘違いされている節があるが、必ずしもフィードバックには、「他者」を含意しない。フィードバックという言葉はもっと広義の概念である。例えば、スーパーマリオで右を押すとクリボーというきのこのモンスターが現れる。そこでジャンプしないとぶつかってやり直しになる。これもフィードバックである。
さて、人は、自分の判断が正しいと正当化する傾向がある。これは評価時でも同じである。また、行動科学の観点から言えば、その行動が起こった時にすぐにフィードバックを行わなければ行動は是正されない。これは管理職といえども変わらない。評価を誤ったらそのときにすぐにフィードバックを行うことが学習効果につながる。良い行動には良い(正の)フィードバックを即時に与え、悪い行動には悪い(負の)フィードバックを即時に与えることで、良い行動は促進され、悪い行動は是正されるのである。
そして、多くの考課者研修では、実際にその場で評価させない。だから即時フィードバックは得られない。だから、改善されず永遠の課題なのである。逆に、今回開発したゲームでは、同じ事実を見て、異なる評価をした場合に、投票および周囲の投票理由という形で即時フィードバックがなされる。これによって「その場における『標準』」がわかるようになっている。だからゲームをするだけで劇的な改善がなされるのである。
また、本ゲームでは、テーブル内完結で実施する場合と、研修形式で実施する場合の2つのパターンを用意している。後者の場合、各自が投票理由を発表した後に講師があらかじめ用意した『正解』を示し、判断理由を伝えることで、会社として妥当と考える評価により近づけることも可能になる。
評価バイアスをどうゲームに再現するか
本ゲームには評価バイアスが起こりやすくなる仕組みを盛り込んでいる。ゲーム的な部分は後述するデザイナーズノートに譲るが、まずは、架空の部下を設定し、その部下に感情移入させることが課題であった。これらは、後述する部下カードというジェネレーターおよび似顔絵という2つの仕組みを考案することで解消した。
評価は複合的である。例えば、明らかに達成しているのでSだというものでも、「前期が未達だったんだからA」とか、「あいつは好きではないからB」という判断が起こる。また、単一の行動だけで評価が決まることはない。複数の行動を総合的に判断するものだ。
部下カードでは、こうした評価に影響を与える要素を洗い出し、その中から、煩雑になり過ぎないようにパラメーターを5つに絞り込み、「性別」「性格」「年齢」「前期の評価」「好感度」を設定した。対象を思い浮かべ、そのような対象が様々な行動を起こす。その際に自分がどのように誤るのか。それを再現できる仕組みを作り、その中でフィードバックを繰り返すことで徐々に評定誤差を解消していく、そうしたものが評定誤差解消ゲームなのである。
まず、性別であるが、性差、つまり男性観・女性観が評価に影響を与えることがわかった。同じような行動であっても性別によっては厳しいということはあるようだ。性差によるバイアスである。また、年齢については、「自分が同じくらいの年齢のときは」という思考がバイアスを生みやすいことがわかった。対比誤差である。また、前期の評価は特に評価に影響をあたえやすい。前期Sだった社員がどうして今回こんなに良くないのだろうと考え始めると「何か事情があったからに違いない」「急に評価が下がるとショックだろうから」といった発想が起こる。論理誤差である。また、好感度を設定した後に似顔絵を書くと、何かを投影するようで途端に行動を善意・悪意に捉えることがある。テストプレイで面白かった発言は「だって、こいつ好きじゃないし」である。まさにゴーレム効果だ。このようにパラメーター設定でかかるバイアスと、本人の信条にちかい「動機付けるために高めに評価したい」などが絡まってくると評価は本当に混乱する。
その他、直近誤差や論理的誤差は行動観察記録に盛り込んでいるので、是非、一度やってみて色々と当社の工夫を探していただきたい。
本コラムは、「IT’S TOO RATE」デザイナーズノートからの抜粋です。
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カテゴリー: ITS TOO RATE ,コンテンツ ,代表コラム
公開日: 2018年9月23日