量質転化という言葉があります。数年前に初めて知った言葉です。
「仕事」という文脈で使われる場合、
「量をこなすことによって、仕事の質が上がる」
という意味でしょうか。
私は、この言葉を聞いたときに、「本当かな~」と懐疑的な印象を持ちました。
なぜなら、思考せずに単純に量をこなしたところで、質が向上するとは思えなかったからです。
この考え方が本当だとしたら、コンサルタントは全て廃業しなければいけません。
なぜならその業界で仕事の「量」を重ねていないコンサルタントは、その業界で長きにわたって経験を積み重ねた人よりも高い「質」のアウトプットが出せないことになってしまうからです。
しかし、畑村洋太郎さんの「失敗学のすすめ」を読み、考えが変わりました。
「失敗学のすすめ」には以下のように書いてあります。
「大事なことは、ひとつには学ぶ人間が自分自身で実際に「痛い目」にあうこと、もうひとつは自分で体験しないまでも、人が「痛い目」に会った体験を正しい知識とともに伝えることです。「痛い話」というのは、「人が成功した話」よりもずっとよく聞き手の頭に入るものなのです。」
「ここで間違いやすいのは、いくら体感が大切だからといって、全て経験第一になってしまってはいけないということです。経験頼みですべてを学ぶやり方には、これはこれで問題があるからです。~中略~世の中には、「ベテラン」と呼ばれる人が沢山いますが、厳密に言えば、体験をベースにしながらも、様々な知識も貪欲に吸収している「本当のベテラン」と、経験だけはたくさんしても何一つ知識化できないでいる「偽ベテラン」の二種類に分類されます。」
(文庫版 失敗学のすすめ )
人間の能力にそこまで大きな差はないので、一定の確率で失敗が発生します。このため、量をこなすほど、失敗の絶対量が増えます。
私にとって大きな発見だったのは、「失敗」は実体験である必要がないことでした。
- 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」
- 「歴史は歴史を学ばないものにだけ繰り返す」
という言葉があります。人は、書物や他者の事例からでも学べるのです。
ふと考えてみると、知人のコンサルタントで「すごい!」と思う人は多読家です。(私は、年間100~150冊読むのですが、それ以上に彼らは読んでいます。)
多読であることで、過去・他者の知が蓄積され、「ベテラン」と言われる人達よりも科学的な理解ができているのです。これがコンサルタントがコンサルタントである理由の一つでしょう。
「量質転化」というのは、自分の経験の量という意味ではなく、過去や他者の経験の量に自分の経験の量を加えたものが、質に転化すると考えると納得のいくものでした。
逆に量質転化といいながら、軍隊式に「それいけ~」とやるのは、偽ベテランの量産の仕組みなのだなと感じたのです。
本書は、知見に富む書籍でしたので、全3話でコラムに書きたいと思っています。
失敗学のすすめ2 ~CSRを失敗から学ぶ~
失敗学のすすめ3 ~全体像~
Nur ein Idiot glaubt,aus den eigenen Erfahrungen zu lernen. Ich ziehe es vor,aus den Erfahrungen anderer zu lernen,um von vorneherein eigene Fehler zu vermeiden. (Otto von Bismarck)
愚者は経験から学ぶことを疑わない。私自らの過ちを避けるために他者から学ぶことを好む。(高橋訳)
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公開日: 2009年3月9日