最近、すっかり聞かなくなった言葉に「ユビキタス(ユビキタスネットワーク)」があります。ユビキタスは、いつでもどこでもつながるといった意味の言葉でしたが、今やそれが常識となってしまった結果、使われなくなったのでしょう。
ユビキタスという言葉が出たころに、類似の言葉で「遍在」という言葉を知りました。「遍在と偏在は違うよ」などという会話をした記憶があります。遍在は「あまねく存在する」という言葉です。
リーダーシップは遍在する
その後、リーダーシップ関連の議論の中でもたびたび遍在という言葉を見かけるようになりました。リーダーシップは、人に属するようにも思われますが、リーダーシップがチーム内に遍在しているといった考え方があり、これを「シェアードリーダーシップ」と呼びます。
シェアードリーダーシップでは、チームの成員それぞれがリーダーシップを発揮する主体だと考えます。世界標準の経営理論で入山章栄氏は
グループの複数の人間、時には全員がリーダーシップを執る」
と書き、「水平関係のリーダーシップ」だとしています。
ゲーム「Go Agile」で顕在化するシェアードリーダーシップ
以前、私たちが開発した研修の一つに「Go Agile」があります。この研修は、リーダーの関与の違いによる成果の違いを体験できるものです。分散された情報をコミュニケーションを通じて交換することによって統合し、解くべき問題を特定して、徐々に問題を解き、徐々に高いレベルの問題を解いていきます。
特徴的なのは、2つのグループに分かれて、「立って」研修を行うことです。各グループには、役割としてのリーダーがおり、一つのグループはリーダーの指示に基づいて行動します。一方、もう一つのグループではリーダーはいるものの、メンバーは自由に動いて構わないというものです。
前者のグループは、レポートラインがリーダーと各メンバーの間にある一般的な組織です。このため、コミュニケーションの線はメンバー数分存在します。一方、後者のグループにおけるコミュニケーションは複雑です。2名の間には1本の線しかありませんが、3名だと3本、4名だと6本という形で1,3,6,10.15.21…と人数の増加はそれほどでなくても人数が増えるほどにコミュニケーションの線は漸増していきます。さて、このどちらのグループの方が速く問題を解決できるのでしょうか。
答えは、、、研修で起きる現象を見てもらうと詳しくわかっていただけると思いますが、多くの場合は、自由にメンバーが動く後者のチームが、シェアードリーダーシップを発揮し、速く問題を解決できます。例外としては、2つのパターンがあります。前者のチームに超熟練したリーダーがおり、後者にいない場合。また、後者のグループ内で何を目指すかといった目的・目標が全く共有されていない場合です。
シェアードリーダーシップを発揮するための前提とは?
シェアードリーダーシップが成立するためには、単に全員が自ら動いているというだけでは足りません。遍在しているということはばらばらだということです。そこに方向性がなければお互いを打ち消し合うことにもなりかねません。方向性を定めるためのミッションやビジョンの共有がされていることが前提になります。それがない場合は、各自が能動的にリーダーシップを発揮してもうまくいかないんですね。よく、チームを扱う研修で、個人の力がそれぞれ別な方向を向いている場合に、全体としての力が弱くなるという話が登場しますが、まさにその現象が起こります。
ただ、もちろん、基本的には、後者のチームの方が圧倒的に早く、人によっては「自己組織化(私はこの言葉がまだ理解できていません)」されたチームだといわれることもあります。こうした「どんな場合にチームで成果を創出できるのか」を考えるには面白い教材かもしれません。
公開日: 2021年7月15日