ハラスメント研修に対する直感に反する研究結果(2)-バイスタンダーになる研修が効果的-

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ハラスメント研修に対する直感に反する研究結果(2)-バイスタンダーになる研修が効果的-

今回は、前回の記事「ハラスメント研修に対する直感に反する研究結果(1)-禁止行為を伝える研修は逆効果-」の続編です。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー3月号に記載された「中途半端な打ち手が被害者を苦しめる 職場のセクハラ対策はなぜ裏目に出るのか(以下、本稿)」に記載されたフランク・ドビン、アレクサンドラ・カレフによる論考で紹介された考え方について書いています。

さて、前回は、禁止行為を伝える研修は逆効果という直感に反する研究結果について書きました。もちろん、逆効果だと指摘するだけでは建設的ではありません。ビジネスでは常に「では、どうすればよいか」が求められます。今回は、効果的なハラスメント防止教育について一歩踏み込んで記載します。まずは、前回の記事の最後に記載した内容を引用します。

研修が「男性は注意しろ」というメッセージを送り、かつ禁止行為という基本をことさらに伝えることで「男性は境界線をわかってない」と伝えることになります。そうすると何が起こるのかというと、その集団、つまり男性は防衛的になり、解決に協力しなくなります。それどころか、抵抗すらするようになり、セクハラ研修をすると、被害者を責める傾向や相手がでっち上げもしくは過剰反応だというようになるのだそうです。つまり「あなたたちが悪いんだ」という研修は、逆効果なんですね。研修を受ける前にセクハラ傾向のあった男性は、研修後は更にセクハラ行動に肯定的になるという結果が見られたそうです。

では、このようにならないようにするにはどうすれば良いのでしょうか。

著者らは、2つの効果的な研修を紹介しています。それぞれを紹介します。

「第三者介入(bystander intervention)」という手法

この手法は聞き慣れない手法かもしれません。この手法では、「あなたは潜在的な加害者である」というメッセージではなく、セクハラの加害者と被害者を見ている第三者(バイスタンダー)であれば、どう介入するかを考えます。これによって、「あなたは潜在的な加害者である」というメッセージが消え、研修参加者は「職場の問題をともに解決する仲間である」というメッセージに変わります。

バイスタンダーとは「その場に居合わせた人(第三者)」という意味です。この立場で、不審な行動を見かけたらどう介入するかを訓練するのです。なお、私見ですが、「介入」というアクションをいきなり教えるのは筋悪です。まずは知覚が重要です。何が不審な行動か(知覚)、そしてそれを見た場合にどう解釈するか(認知)、更にはどう介入するか(行動)というメカニズムを順に処理することが効果的です。(これは、「知覚アプローチ」という当社の手法の一つです。)

この手法は、米国の大学や陸軍・空軍などを含め、多くの組織で実行され、不審な行動を見たときへの介入の頻度という点でモニタリングされ、確かな結果を残しているという点で、有効な手法です。(なお、ニューヨーク市での実施は時間がオンラインかつ45分と短くて効果が薄かったそうです。少なくとも効果を発揮するには対面で数時間が必要という結果が得られたそうです。対面で一定の時間を確保する・・・重要ですね。)

ハラスメント関連の学習目標を確認する際に、「自分ごと」というキーワードが頻出します。この解釈には二通りあります。まず、潜在的加害者であることを認識する、つまり「あなたもやっちゃうかもよ」とういうもの。もうひとつは、第三者として関わる必要があることを認識する、つまり「あなたの周りで起こったときに、介入する主体として行動してね」というものです。学習目標が前者の場合は、研修内容に一工夫する必要があるかもしれません。

実は当社の「ボスの品格」や「イエナイヨ」でも第三者介入を用いています。当社の「ボスの品格」では、不審な行動がカードとして提示されます。それについては、各自がどのように認知するかを他者と比較して議論していただくという方法を採用しています。更に、一歩進めて、具体的な介入方法まで議論の場を作っていただくことで、実りある研修が実現できると感じます。

マネジャー「限定」研修

マネジャーだけに絞った研修も効果的だそうです。これについては多くの企業の実感するところとさほどずれないと思いますが、限定すればよいわけではなく、限定して、更に上記の第三者介入という手法を用いる必要があります。この場合に、女性マネジャーの数は大幅に増加したそうで、マジョリティである白人女性に絞ると6%以上の増加が見られたそうです。前回記載した5%との減少と比較すると目覚ましい成果なのではないでしょうか。

マネジャー限定の研修の本質は、マネジャーを「潜在的加害者」として扱うのではなく職場を救う「ヒーロー」になれると感じさせ、その具体的な方法論が得られることです。私は、これを「ああ、道具性が高いんだ」と感じました。方法論を活用することで、周囲から認知され、承認を得られる。基本的ですが、マネジャーという立場であっても嬉しいことです。

繰り返しになりますが、本稿はセクハラに絞った研究結果です。ただ、人間行動の基本は変わりませんので、ハラスメントに関する研修全般、ひいては、具体的に何らかの行動を抑制しようと意図する研修全般に共通する観点の得られる滋味深い論文だと考えています。

当社は研修の会社なので、本稿から研修に関する部分を抜き出しましたが、その他、苦情制度など幅広いノウハウが記載されています。人事制度関連の方は必読の論考です。

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